Essay 12 設計事務所の行く末

朝日新聞で「設計事務所に住宅を依頼する有益性」を語っている記事を読んだ。記事には、地震・高齢化・不安定な経済情勢と様々な要因から多様化するニーズや、将来的な「家」に関するケア・アドバイザーとして「設計事務所」に設計を依頼することは、内容はもとより、金額までも安価に押さえられるとある。今までは「住宅メーカーや大工さん」に任せていた「家」だが、こんな時代だからこそ「設計事務所」の良さを理解すべきだと・・・。
 
 
確かに、その通りだと思う。私だって、そう思っている。同時に現実は、そんなに簡単に割り切れるものでは無いことも実感している。
 
 
家を建てるときに、住宅メーカーに頼もうと、近所の大工さんに頼もうと、必ずや「設計士」の資格を持った人の手に、一度は委ねられることになる。お役所に「こんな家を建てますよ」と認可を受ける「建築確認申請」と言う作業を「設計士」の資格を持った人間が行うからだ。
 
 
住宅メーカーならば、その会社に所属する「設計士」か外注先の「設計事務所」に依頼する。大工さんの場合なら、知り合いの「設計事務所」に確認申請だけ、取ってもらうと言うやり方で関わるのが普通だ。つまり完全な裏方・・・ただのドラフトマンとしての関係。
 
 
不景気風の吹き荒れる近年でも、住宅の着工件数はそこそこ有る。そして、住宅メーカーの受注件数もその数に比例している。その対極にあるのが「設計事務所」の落ち込みかもしれない。勿論、町場の大工さんも仕事が無いのが現状だ・・・なぜだろう?
 
 
阪神淡路の震災で、多くの被害者を出すと言う惨状を目の当たりにしても「工事の安全を監理する設計者」の存在を重要とは考えない。高齢者時代と言われても「階段に手摺を付け、床の段差を無くしただけ」で、バリア・フリー住宅だと思ってしまう。それが「家」を建てようとする人の実情なんだと思う。
 
 
当然、地震やバリアフリーに対しての心配はする。だけど、一番重要な点は「工事金額」に有ると言わざるを得ない。そして、何よりも「個々の設計事務所」には、残念ながら知名度もコマーシャルを大々的に行うことの出来る、資金的な体力もない。だから知名度の有る大手住宅メーカーに「安心と信頼そして保証」を求めてしまう。何よりも「価格」で勝負を仕掛けてきているのが、今のメーカーの実情だからだ。「坪単価29万8千円!」とか「木の住宅を坪単価39万円から」と大々的に広告すれば、値段に誘われるのは仕方のないこと・・・。まして、相手は大手の住宅メーカー。万が一にも失敗もトラブルもないだろうと思ってしまうのは人情でしょう?
 
 
それに引き換え設計事務所と言えば、なんと言っても「先生家業」のイメージがある。「こんな小さな家じゃ頼めないよなぁ~?」と思っている人が「高い設計料」を払ってまで、頼みに来ないでしょ?だって、「高い設計料」と思っているんだから・・・・・・違いますか?
 
 
だいたい「設計事務所」と言う仕事の認知度が、どれくらい有るのか知ってますか?私は以前「設計事務所って何屋さんですか?」と、真顔で聞かれた経験があって、涙出そうになりましたよ~。その程度しか認知されていない上に「高い設計料」・「先生家業」とイメージされたんじゃあ、仕事の依頼なんか有るわけない!
 
 
さあ!ここからが大事な話!
設計事務所も大工さんも、仕事が少なくなるとどうなる?(大先生や都庁の設計をするような方は別ですよ。あくまで一介の設計事務所の話)これ当然仕事を求めるか、転職するかのどちらかですよね?「仕事はどこ?」そう!住宅メーカーに有る。だから、住宅メーカーの下請けになるわけ。大工も設計士も。これはメーカーの買手市場。「安く!早く!精度良く!」と下請けを叩くことが出来る状況になる。メーカーだって坪単価を下げるために、利益を削っているのが現状だから、当然下請けにも同じことを要求する!「嫌なら止めろ!代えはいくらでもいる!」ってな調子でね。
 
 
ところが人間だから、必要以上に安く仕事をさせられると、どうしても仕事が雑になる。そして、本来ならその「雑な仕事」をチェックする人たちが下請けなのだから、当然「見て見ぬ振り」・・・違う?
 
 
ところが今は、設計者の責任が非常に問われる。「確認申請書」の監理者の欄に名前を書いた瞬間に、もう「設計者の監理責任」は免れないことになる。工事で、何か欠陥でもあろう物なら、下手すりゃあ何百万の賠償沙汰(>,<)まさに踏んだり蹴ったり状態。
 
 
「そんな仕事、しなきゃ良いのに~」と、他人様がおっしゃるのは簡単ですが、じゃあご飯はどうやって食べるの?幸か不幸か私は、そう言う類の仕事はしていないけど、その仕事が「住宅産業」の底辺を支えていることは、動かしがたい事実です。決して、「良いとか悪い」とか言っているんじゃありません!ただの事実を、事実として言っているだけ。
 
 
今は「10年保証制度が出来たから、そんなことは無いでしょう~?」なんて言ってる人は甘い!どれぐらい甘いかって「砂糖のたっぷり入ったケーキに蜂蜜をかけて、練乳で混ぜたくらい甘い!」内容を知らなすぎる!「建物の主要構造部において・・・」って書いてあるでしょう?柱や梁と言った部分が10年も持たない建物なんか、1年も持たないですよ!「ドアや窓の立て付けが悪かったら・・・」って項目も有るけど、そんなに悪かったら最初から扉は、開かないって!その程度の数字なんですよ。法律って、所詮その程度なんですよ。その法律に「守られてるから安心」なんて思ってたら間違いなのに・・・と言っても、誰も信用しないだろうけど?
 
 
つまり、一番損をするのは「建築主」その人。何かあれば裁判だ!訴訟だと言うかもしれないけど、その間の「心労」はどうするの?欠陥住宅に対する金銭的な保証はしてくれても、精神的な苦痛に対する保証はしてくれないよ~。少なくても、あなたが味わった苦痛程わね。それに、失った時間は戻って来ない。これが一番大事な話だと思うけど?
 
 
建築主が金額を最重要と考える → 住宅メーカーの受注が増える → 設計事務所も大工さんも仕事が無くなる → 住宅メーカーの下請になる → 住宅メーカーに安い仕事をさせられる → 仕事が雑になる → 良い家が出来なくなる → 建築主が泣く → 設計者・大工さん・住宅メーカーも泣く → 日本はどんどん貧しい国になる。まさに「風が吹けば桶屋が儲かる」方式?
 
 
こんな感じかなぁ?まぁ~どっちにしても設計事務所は淘汰されて行く時代ですよ。私も含めてね。なんだか、書いてて寂しいなぁ~~~
 

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