Essay 14 代願事務所

99年の5月に、建築基準法の一部が改正されたのは、ご存知ですか?内容を簡単に言えば「欠陥住宅」や「違反建築」を無くす為の法律強化です。非常に素晴らしく喜ばしい内容なのですが、果たして本当にそう上手く行くものなのでしょうか?昨日までダメだったものが、法律を改正したからと言って、今日から良くなるものなのでしょうか?はなはだ、疑問に感じてしまいます。
 
 
私は、この国の「設計事務所」の7割から8割は「代願事務所」では無いかと思っています。 「代願事務所」と言うのは、主な業務として住宅メーカーや建設会社、あるいは不動産会社の下請けとして図面を書く事務所のことで、間取り図や許認可の取得業務を、その会社の変わりに行う事務所のことを言うのです。
 
 
つまり「代願」です。そしてこの代願事務所が、住宅産業を支えていると言っても、過言ではないと思っているのです。問題は、その作業環境なのです。
一般的に言う下請け作業になるわけですから、その作業条件は厳しいのが現実です。依頼する側が、建物の値段を下げることに躍起になれば、その皺寄せの一部は下請けにも来ることになる。工事を行う職人さんを始め、許認可を取るための設計事務所も、皺寄せを受けることになる。
 
 
中には、営業マンがお客さんと打ち合わせした、まったく家の間取りとしては出来あがっていないスケッチを渡され「明日中に確認出して!」などと言う、とんでもない依頼の実態も有ると聞きます。
どうやら、図面はお湯をかければ、3分で出来あがると思っているらしい・・・。ところが、ここで毅然と「無理です!」と、言おう物なら「じゃあ、余所に頼むから」と冷たい言葉が返ってくるのが現状(>,<)しかも、報酬はすずめの涙。それが、今の住宅産業界での、設計事務所の立場の一面でもあります。
 
 
家を建てるためには、確認申請書を役所に提出しなければなりません。その書類には、工事を監理する設計者の名前を書く欄もあります。30坪以上の建物には、管理者名の明記は義務付けられている訳ですが、ここに名前を書くと言うことは「この建物の如何なる責任も私が取りますよ」と、宣言することなのです。そして、昨年改正された法律では、「建物に問題があった場合には、ここに名前を書いた人間を厳しく罰するよ!」と言う内容になったわけです。
 
 
監理者欄に名前を書かざるを得ない設計士は、当然工事の内容をチェックしなければならない。ダメな物はダメと言って、正しく指導するのが監理者の仕事。でも、一体誰に言うのでしょう?そう、仕事の依頼主であるハウスメーカーや建設会社に言うのです。仕事を貰っている会社に「そこは、やり直してくださいね!」と言うことになる。この関係で、正しく工事監理が出来ると思いますか?
 
 
何処か変だと思いませんか?何処の世界に、こんな構図があるのでしょう?これで、100%正しく建物が造られている方が不思議な気がします。
「そんなバカな~」と、お思いの方もいらっしゃるでしょうが、あなたの身の回りで、最近お家を建てた方に聞いて御覧なさい。
 
 
「設計者とまともに打ち合わせをし、まともに設計監理報酬を設計事務所に払った記憶があるか?」と。ほとんどの方が「無い」と答えるはずですから。
 
 
それなのに、監理を正しくしなければ「監理者」を罰すると言う法律を作っても、問題の解決にはならない気がするのは、私だけでしょうか?だって、下請け業者を、罰するだけのことでしょう?
それでも、「監理者がきちんと見てくれないから、欠陥住宅が生まれる!」と反論される方にお聞きしたいものです。
「それでは貴方は、なぜ当たり前のことを、当たり前にやらないのですか?」
 
建物を建てるには「建てることが専門の人に頼む」。
きちんとした設計が必要なら「設計のプロに頼む」。
正しい工事を望むならば「公正な監理者を頼む」。
 
 
これ、いずれも当たり前のことだと思うのです。そして、専門家に頼めば報酬が伴うのも当たり前。 それを「面倒だから」とか「安く出来るから」、「わが社では設計料を頂いておりません」などと、とんでもないセールストークを間に受けて、良く考えもせずに依頼して、失敗すれば全部設計者の責任だと思い込む。これ、本当に正しいものの考え方ですか?
 
 
まるで、燃費の悪いアメ車を買っておいて、後から「こんなに燃費が悪いとは思わなかった。もうちょっと燃費が上がるようにエンジン直して!」と言っているようなものですよ。 そんな、話しはどこの世界でも通用しないと思いますがねぇ~。
 
 
それが証拠に話題になった「欠陥住宅」で建築家が設計し、監理をした建物が一軒でもありましたか?答えはNO!一軒も有りませんよ。 全部、住宅メーカーや建設会社が直接建てたものばかりです。
 
その辺りの事実を認識することもせずに、自分達の「家作り」への姿勢が、いつでも完璧だと信じ込むのは、どうかと思うのですが如何なものでしょうか?
 
 
「それじゃあ、どうすれば良いのか?」と、お悩みのあなた!ズバリ設計事務所にオブ・ザーブしてもらうのですよ。正しい住宅メーカーの選び方や工事の適正を見てもらうなどの、味方になる人を探すしかないでしょう?これは、本来の設計事務所の仕事ではないかもしれません。でも、良い建物を造る為なら、きっと協力してくれるはずです。専門的な作業には専門のオブザーバーが必要なのです。これ、自分の家を「欠陥住宅」にしない近道だと思います。
 
 
 「違反建築物」を無くすことに関しても同じです。住宅でも工事が終われば「完了検査」を受けることは義務付けられています。ですが、神奈川県では、その4割弱しか検査を受けていません。なぜか?
 
 「確認申請書」では合法な建物の申請をしておきながら、工事中に違法に変更してしまうからです。それも、ほとんどが施主や施工者の都合に拠るもので、設計者はそんなことを少しも望んではいないのに。 やれ「窓に網の入ったガラスは嫌だ!」とか「小屋裏に大きなスペースを造ってくれ」とか言い出すのは、全部施主です。そして、とても基準法に通るはずも無い「違反建築物」が出来あがってしまうことになる。 それなのに、それも設計者(監理者)の責任ですか? 「設計者が施主にダメですよ!」と言わなかった責任なのでしょうか?
 
 
もっとも、私だって偉そうなことを言える立場では有りません。ただ、私が言いたいのは、何かペナルティがあった場合、全てを「設計者・監理者」だけの責任だと押し付けても「欠陥住宅や違法建築物」を無くす「抑止力にはならない」と、考えているのです。いや、それどころか真摯な設計者の存在までも、消しかねない危険性さえ含んでいると思います。
 
 
それでは、誰が「あなたの家」を公正な目で守ってくれるのでしょう?
 
 
 「家」を建てることは、法律で規制された枠の中で行う行為です。 それは、住む人だけの居住環境にとどまらず、周りの人達の居住環境をも考慮して考えられている法律なのです。「自分さえ良ければ、周りは関係無い」と言いきるならば、無人島にでも住んだらどうでしょう?
 
 
確かに法律の中には、おかしなことも一杯あります。抜け道だって多い。だからと言って、皆が皆な自分勝手なことをしても良いと言うことではありません。 それを正しく理解し判断している建築家を信頼せず、便利で都合の良い会社に全て任せておいて、失敗したときだけ「設計者・監理者」と言う代名詞を使って騒ぐことは、まともな「設計者」には迷惑なんですけどね・・・。
 
 
世の中には、住宅の設計に真摯に取り組む建築家が数多くいます。 その建築家達は施主の信頼に応えるべく、環境や街並みに考慮しながら少しでも良い家を造ろうと真剣に考えています。 そういう建築家が、「家造り」のパートナーとしての選択肢に入っていないのは、非常に残念で不幸なことだと思います。
愚痴になってしまった・・・・・・反省・・・・・・。
 

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