Essay 8 最終兵器

今、住宅の改装工事の真っ最中です。この改装工事、実は工事予算があまりにも厳しくて、建設会社に断わられたんです。仕方が無いので、私が現場監督さんになっている。つまり、設計事務所の直営工事なんです。当事務所始まって以来、2回目の直営工事。
 
実は、これが非常に辛い作業なんですよ。設計と言うのは、一人でコツコツと図面を書く、内向的な作業なんですが、現場で多くの職人さん達と打ち合わせをし段取りをしていく作業は、極めて外向的な作業と言えます。その両方を一人でやるのは、精神的にかなり疲れます。そのうえ報酬の部分がまた辛い。
 
普通、建設会社が工事を請け負うと、請負金額の10%から15%が会社の利益になります。もちろん多少の経費も含めてですが、この経費があるから作業が出来るわけで、設計事務所が直営でやるような現場では、そんなわけには行きません!予算が少ないから直営で工事しているのに、「設計報酬の他に経費も下さい」なんて、とても言えない・・・。
 
言葉は悪いが、業者の「上前をはねる」ことで、経費分を捻出する方法も有るのだが、幸か不幸か私にはそう云うことが出来ない。(いたって正直者なのだ・・・馬鹿が付くけど)それに、そんな金額があれば建設会社に依頼したほうが早い!仕方なく、赤字覚悟で頑張ってしまう…(でも本当に大変なのです…) だから、いつも貧乏なのかもしれない・・・?
 
結局、ローコスト住宅の方法の一つが、設計事務所の直営工事かもしれない。(多分にマゾの気がある人しか、やらないかもしれないでしょうが…)
 
家を建てるとき、建築主の希望することの第一希望は「安く」次に「早く」、おまけで「良いものを」という順になる。つまり「安い」ことがとても大事!だけど・・・聞いていると、違和感を覚えることが有る。なにか無茶を言っている。
 
例えると「軽自動車を買う予算でベンツを売ってくれ」と言っている。絶句してしまう。私は手品師でも魔法使いでもない。だから、そんなことは絶対に出来ない。せいぜい、軽自動車にターボを付けるのが、精一杯だ。(それでも凄いでしょ~?)なぜ、予算が無いのにベンツに拘るのだろう?
 
家族や生活スタイルは、各人各様で人それぞれ違うはず。だから、ベンツを快適と思う人もいれば、軽自動車のほうが快適に生活できる人もいるはずなのに、同じような考え方をする。
 
これは「隣と同じが暮らしやすい」と言うような、平均を好む考え方の延長に有るのではなかろうか?
 
似たようなデザインの外観、どこにでもあるような間取り・内装の仕上げ。それが勉強不足から来ているものだとしても、あまりにもレベルが低すぎる発想では有るまいか?そのくせ子供には、個性を求めたりしていたら、もう最悪である。
 
家を建てたいと考えている人は、もう少し勉強しましょうよ~!もっと賢くなりましょうよ~!せめて、もう少しいろんなことを考えてくれる、まともな家作りのパートナーを選びましょうよ~。頭を下げてお願いしちゃいますよ…
 
どうしても「安いこと」が第一条件と希望するなら、私はこうアドバイスをします。「とにかく捨てなさい!」と。何を捨てるのか?
 
それは間違えた常識を捨てることです。勉強もしていない人が、にわか仕込みの、薄っぺらな知識など振りかざしたってダメです。貴方が信頼して選んだ建築家は貴方の頭脳です。その建築家と一緒に考えることが大切です。(住宅メーカーを選んだ方は、ここで読むのを止めましょう。あなたを対象には書いていませんので、あしからず)
 
そして物だって捨てましょう!本当に残したい物は何かを、考えてください。家の中には、一生使わないような物が一杯あります!だったら、人に差し上げるなり、ガレージセールで処分するなりしてみてはどうでしょう?家を建てるときが、良いチャンスなのです。そのチャンスを生かしましょう。いくら収納を増やしたって、物には限界があるのです。それとも、倉庫をもう一軒建てるつもりですか?
 
この機会に、家族がどうやって生活していくのかを、見直すことが大切なのです。すると、あら不思議!家の中にいらないものが、一杯あることに気付きます。どんどん捨ててしまいましょう。
 
そうすれば、今まで物で隠れていて見えなかった場所が、時間が、心のゆとりが、きっと見つかるはずです。大切なことは、家を建てることを楽しめるぐらいの「心」のゆとりです。
 
こちらは商売ですから多くの施主と会いますが、打ち合わせを楽しみにしている施主の方でも3度目までで、後は惰性の人が実に多い。300万の車を買うのだって、散々研究して悩んで迷って買うわけです。3000万の家なら、その神経の疲労度は想像を超えます。
 
そんな状態だから、集中力も落ちてくるし考えるのも面倒になってしまう。そんなことでは、ローコストの住宅などは建てられません。
 
ペンキぐらい自分で塗ってやる~!」と言うぐらいの、余裕が出来ればきっと隣とは違う「家」が出来あがるし、予算も安く出来あがる。何よりも「家」に愛着が沸くと言うものです。建売住宅など買って満足している人よりも、きっと自分の「家」を大切にするはずです。そんな人は、どこかが壊れたりしても、自分で楽しみながら直してしまうに違いないありません。
 
 
電球の玉を交換するのに、電気屋さんを呼ぶ人に比べれば、ランニングコストつまり維持管理費も安くなることでしょう。そして「良いローコスト住宅」を建てる最終兵器は「向上心の強い若い建築家」に出会うことです。このタイプの建築家に出会えたら、それだけで90%終わったようなもの。
 
 
なぜなら、この建築家は非常に頑張ってくれる。「建築に夢と希望と理想」を持ち、まるで自分の家のように一生懸命に考えてくれるでしょう。(ただし数少ないタイプなので、どこで出会えるのかと聞かれると答えられませんが…)
 
大切なのは、貴方も頭と体を使うこと。そして、自分が選んだ建築家の考え方を、きちんと聞くと言う姿勢を持つこと。この二つが出来ればきっと「楽しいローコスト住宅」が出来るでしょう。
 
 
なお、住宅メーカーや建売住宅を選ばれる方、若しくはもう選んでしまった方は「不平」・「不満」と言う言葉を、貴方の辞書から消しておくことをアドバイスしておきます。 
 
 
設計事務所が直営工事を引き受ける場合は、ローコスト住宅の最終兵器なのです。設計報酬だけで、現場管理までする事になれば、当然赤字になる。設計報酬だって普通より、ずっと少ない勘定になる。 いつまでも愚痴をこぼしていても仕方が無いので、現場に様子を見に行って来よう。
 
やっぱり、私はマゾかもしれない・・・。

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