Essay 59 妻たちの 新・建築学入門

なんやかんやと有って、土地に対する点ではかなり妥協してきたが、ここからは違う!奥さんの「にわか建築学入門」が本格的に始まるのである。


まず、何をするか?自分たちの生活スタイルを見直す?あるいは、家族におけるコミュニケーションのあり方を考える?家は人生を演じる舞台であると、大上段に構える?どれも違う。


奥さんは、当然の事ながら形から入る。これが基本なのだ!スキーを始める時だって、まずはウェアーから入るのだ。決してプルーク・ボーゲンとは何かなど知っちゃあいない!これは、奥さんにとっては、ごくごく当たり前の事なのだ。


だから、その形から入れる情報源を探す事になる。情報を一番手に入れやすいのは、当然の事ながら本屋。だから、まず最初にする事は、近所の本屋に行くことになる。ここ最近本屋になど行った事が無い奥さんが、本屋に行く事だけで、ナンダか凄い事をしているような気になるのは、言うまでも無い。なぜなら、普段奥さんが買う本と言うのは、大抵コンビニで足りているから。


久しぶりに入る、本屋さんにビックリ!ナント!本が一杯有ることか!とまで言ったら叱られるかなァ?
奥さんが目指すのは、「建築の専門書コーナー」だが、並んでいる本は字ばかりの難しそうな本ばかり。心の中で「ここは違うわ!」と呟きながら、月刊誌の並ぶコーナーに移動する。


「あった!」と、一人ご満悦の笑みを浮かべながら手に取るのは、写真が沢山載っている、まるでカタログのような本ばかり。 間違っても、「建築住宅」や「住宅特集」などと言う、専門的な住宅誌は買ってこない。なぜなら奥さんのセンスが、付いていかないからである。


こうして買い集められた雑誌の束から、何の脈絡もなく、こっちから出窓の写真、あっちからキッチンの写真。そして、またこっちから和室の写真と切り取られファイルされ、奥さんのオリジナル住宅の写真集が完成するのである。


「我ながら、良いセンスをしているわ~」と勝手な事をのたまいながら、一人ほくそえみ、統一感の無いバラバラのセンスの写真の寄せ集めに、酔いしれたりするのである。(この瞬間を間違っても、覗き見るような事をしてはいけないのは、言うまでも無い・・・)


こんな時に、ご主人が会社から帰って来よう物なら、出来たてのファイル片手に、みっちり3時間は話を聞かされる事になる。しかもまだ、ご主人は夕飯を食べていなかったりするが、そんな事には御構いなし。(この日ご主人は、とうとう夕食抜きだったりする)


そんなこんなの、奥さんの努力の結晶のファイルを傍らに、不動産屋の営業マンとの打ち合わせ当日となる。大抵の場合、不動産屋から土地を買うと、建築条件が付いている。これはその土地の契約日より、3か月以内に建物の工事に関する契約も行なうと言う事である。つまり、土地を販売するだけでは税法上の問題で利益が少ないので、建物の工事も一手に引き受けて、その中から更に利益を挙げれるようなシステムになっているのである。


だから土地の契約が済むと、今度はその土地にどんな建物を建てるのかと言う、打ち合せが始まるのである。更にこの建築条件は、1坪当たりの工事費が決定している。


建物の形も間取りも決まっておらず、建主の好みも判らない段階で、工事費だけが決定しているのである?すごく不思議な気がするが、この奥さんたちには別に不思議では無いらしく、打ち合せは何も違和感なく始まる。


家の設計に関する打ち合せと言えば、当然設計を担当する設計事務所の人間が同席しそうなものだが、打ち合せに訪れるのはいつもの営業マンただ一人である。 でも誰も不思議だと思わないし、仮に不思議に思っても、それを口にはしない。暗黙の了解でもあるのだろうか?それが1番不思議だったりする。


そして奥さんは、快調な滑り出しで話し出す。「1階にはLDKの他に水廻り、2階には夫婦の寝室が6畳程度に、子供部屋が2つ、それぞれ6畳程度でお願いします。それにトイレは2階にも欲しくて、収納は取れるだけ取って下さい。」と、まずはジャブを繰り出す。


さあここからが、勉強の成果の見せ所と言わんばかりに、ファイルを取り出し「キッチンはこんな感じで、居間はこの写真のようにして下さる。寝室にはこんな出窓が欲しいわ~。そうそう、玄関は広めにして、こんな写真の大きな階段が付いてると素敵ね~」と、まるで「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラが住んでいる家の玄関ホールみたいな写真を、堂々と広げたりするのである(経験者談 ^^;)


それでも営業マンは、笑顔を絶やさず受け答え、「はい、わかりました。それでは3日後にプランを持って伺います。」と平然と帰って行くのである。(ホントに判っていたら大した物である・・・)最も玄関を出た瞬間に、先程迄の笑顔は消え、「チェッ」と舌打ちしている姿を誰も知らない。


この夜、奥さんは3日後に出来上がってくる、理想の家の夢見ながら眠りについた事は言う迄もない。こうして、プランの打ち合せは快調に始まるのであった。

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