Essay 159 シックハウスの話

『シックハウスって、昔からあったんですか?最近の人の体が弱いのか、建築で使うモノが変わったのか、疑問だったんです。』


と言うご質問を頂きました。そもそも「シックハウス」ってどう言う意味だか、その定義を明確に言える方がどれほどいるでしょうか? なんとなく概念的には解っていても、定義となると難しいですよね。
シックハウス症候群=住宅に使われる化学物質などによる健康障害 と言うのが、正しい定義だと思います。もっと細かく言えば、「症状が、その建物から出ると治まる」なんて言うことも有るかもしれません。


もともと「シックハウス症候群」と言う言葉は、「シックビル症候群」から来ている物だと思います。シックビル症候群とは、ビルで働く人にめまい、吐き気、頭痛、平衡感覚の失調、眼、鼻、喉の痛み、粘膜や皮膚の乾燥感などの身体の不調が表れる病気で、1980年頃から欧米各地のビルにおいて多く発生し始めたと聞いています。(一説には、もっと古くから有ったらしいです)この症状と似た症状を引き起こす事から「シックハウス」と呼ばれたのだと思います。


話を元に戻します。
元々日本の家屋は、木と土、そして紙で出来ていました。そしてそれらの材料を丹念に吟味し、手造りの家を建てていたのが、ある意味で文化でも有りました。


それが高度経済成長期を境に、工業化の方向に進みます。材料も塩化ビニール・鉄・コンクリートと、様々な物が複合的に取り入れられ、建物はアッと言う間に変化し始めます。持ち家政策も拍車を掛け、家は工業製品になって行きました。求められるのは、ひたすら「早く、安く、丈夫に」と言う事。その狙いは尤もなのですが、技術革新が「家」を「ビル化」させてしまったのかもしれません。


木の窓や障子・襖がアルミサッシュに、土やモルタルを塗った壁から、金属のサイディングへと変わって行きます。室内に用いられる材料も塗り壁は減り、ビニールクロスがスタンダードになっていくと、家の密閉度は考えられないほど高くなっていきました。


冷暖房を効率良く利かせるためには、素晴らしい環境になったのですが、そこには大きな落とし穴もありました。それが「化学物質過敏症」、つまり「シックハウス症候群」だと思います。

工業製品の中には、使う側には解らない有害物質も多く含まれていました。そしてそれは少しずつ室内に洩れます。悪い事に室内は密閉度が高くなり、年間通してエアコンで温度調整する始末。窓を大きく開け、風で涼を求めるより、エアコンのスイッチをポンと入れるだけの方が、簡単だし快適ですからね。


シックハウスの症状を訴える方の年齢が、大人よりも子供の方が多い事をご存知ですか?


子供は自分の体調不良を、上手に大人に伝えることができません。親や医師に対してもです。這い這いをする赤ちゃんは、床材に含まれる化学物質を、誰よりも沢山吸い込むことになります。大人より身長の低い子供は、親の分まで化学物質を吸ってしまう事になるのです。


その結果、原因不明のアトピー性皮膚炎や、突発性と名が付く理解不能な病気に掛かったりするのかもしれません。勿論、建築材料が全ての原因で有るなんて暴論は吐きませんが、一つの要素であると言う疑問は拭いきれ無いでしょう。


シックハウスの歴史とは、ひょっとすると「住宅産業」の歴史なのかもしれません。その歴史の中に揉まれても、何の問題も無く生活できる人と、苦しむ人の境目が何処にあるのかなんて、誰にも解るものでは有りません。


じゃあどうする?どうやってそれを避ける?
それは家を建てる時に、自分自身が決断する大切な選択の一つなのでしょう。


「シックハウスになったら訴える!」と言う選択もあるでしょうが、それは「シックハウス」と言う病気が、まだ世に知られていない時の話。今のように誰もが、その危険性を認知している状態では、所謂「後の祭り」。


自分自身が、愛しい我が子が苦しみ、のた打ち回る姿を見た後で訴えてどうする? それを回避する事の方が大切なのは、誰の目にも明らか。


住宅建材に関しては、有害物質の使用制限がドンドン設けられている昨今ですが、よく考えましょうね。
「今現在も使用規制が掛けられる有害物質が有ると言うことは、今はまだその危険性を認知されていない有害物質も多くあるかもしれない」と言う事を。


それをどうやって回避し、自分達を守って行くのかを考える事も、「家造りのある種の側面」で有ると言う事もね。


日本で「シックビル症候群」の発生状況に関しては、平成6年度から国が、大型ビルの空気環境の実態調査の乗り出しています。札幌市においても調査が開始されています。


家族を守る為の家が、家族を蝕む事が無いように心から祈ります。
(個人的な理由から、ちょっと感情的に書いたかもしれません。気分害された方がいたら、ゴメンなさい)

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