Essay 172 ローコストを考える

一昔前、日本人が好きなものを表すのに「巨人・大鵬・卵焼き」なんて言われていた事があった。勿論一つの例えであって「日本人全てを指す」なんて有り得ないのは先刻承知の事で、
まず私が違う。


まぁそんな事はどうでも良いのだが、こんなふうに何かを3つの単語を使って象徴的に表すことがある。例えば今時の『住宅事情』を3つのキーワードで表すとすれば、さしずめ「二世代・狭小・ローコスト」なんて感じじゃないかと思ったりする。


核家族化から徐々にだけれど、二所帯あるいは二世代同居型の家が増えている感があるし、狭い土地に家を建てることや、低予算で建てた建物の特集記事を組んでいる雑誌などを目にすることも多い。


ところが、これらの言葉をあらためてジーッと眺めてみると、「二所帯」と言う言葉以外、定義が不明で漠然としたものだと言うことに気が付く。つまり、なんとなく雰囲気的には分かるけど、突き詰めて聞かれると返事が出来ないって事。


例えば『狭小!極小!』と言うけれど、どの位狭いと「狭小」になるのかは知らないし、そんな定義は聞いた事が無い。同様に『ローコスト住宅』だって、一体幾らぐらいの家を指して『ローコスト』と呼ぶのか誰も知らない。勿論私も日常的にローコストと言う言葉を使っているが、その定義など知る由も無い。


そこで、あらためて考えてみるけど、ローコスト住宅って一体何???
「値段が安い」と言うことは分かるし、その事が全てに勝る美徳のようにも聞こえるが、たんに「安い」と言うだけなら「安物買いの銭失い」とか「安かろう悪かろう」なんて言葉さえある。でもローコストって、これらとは明らかに違う筈。つまりある程度の質が伴っていて、その上で値段が安いこと・・・と言うことだと思える。


じゃあ更に一歩進めてみるけど「ある程度の質」ってなぁに?
それにいろんな人が居るのに、求められる質は全て同じなのか?・・・・・・やっぱり違うよね。
う~ん、なんか難しい。


じゃあ少し目線を変えてみるけど、今までの拙い経験の中で「予算はバンバン使って良いから!金に糸目は付けないから!」なんて感じで、予算が青空天井だった・・・・・なんて事は、ただの一度も無かった。もっと言えば、施工者に見積もりを出して貰った時、施主の予算からオーバーしていても「いいからいいから、費用の追加は気にしなくて良いから、私が決めたこの図面でやってくれ!」なんてことを言う太っ腹な施主にも会ったことは無い。


つまり1千万円の住宅だろうが1億円の住宅だろうが、施主の立場から言えば少しでも価格を抑えたい。これつまり『ローコスト化して欲しい』わけである。ただし客観的に第三者から見た場合、1億円住宅は、どんな理屈を付けても、決してローコスト住宅とは言わない筈。
例え本来なら2億円掛かる住宅を、知恵と努力で半分の1億円に抑えたとしても、やっぱりそれはローコスト住宅と呼ばれないと思う。


設計者の立場から言えば、2億円の住宅を1億で造る事も、2千万円の住宅を1千万円で造る事も、同じように大変な事だと思うし、ある意味辛い作業でもあると思うのにだ。なんだか不思議だけど、このニュアンスは違ってない筈。


つまりローコストと言う言葉を使う時、それが施主と言う当事者の場合と、外から見ている第三者とでは、明らかにイメージしているものが違うみたいだ。


あーーー!なんか難しい~!こう言う話をロジカルに、まとめようとすると頭が混乱する~!


と言うことで、もう一度話を切り替えて、こう言うのどう?
つい先日完成した住宅に、広さ21坪弱、総工事費で1300万円を下回る建物がある。
地盤が弱かったので、その地盤補強なんぞもしたし、チョッとだけど外構工事だってした。勿論消費税を含んでの値段。つまり『狭小住宅』の「ローコスト住宅』って事になる。


だって、地盤補強と外構工事と消費税を抜いたら、1100万円代で建ったと言うことになるんですよ~、金額だけを捉えて言えば、この金額なら充分ローコスト住宅だと言っても許されると思う。


ところが、この建物、柱と梁だけで壁が無いんです!
おまけに風呂は無いし、洗面所だって無い!・・・・・・・・・・・・・って言ったら驚く?いや、それは冗談ですけど、もし万一、こう言う住宅があったら、それはローコスト住宅と認められないかな?ただのバラック呼ばわりなのかな?でもそう言うのが好みの施主だって居るよね?

 

まあダラダラと書いてしまったが、結局「ローコスト」にも『狭小』にも定義なんか無いし、定義付ける必要も無いのかもしれないと言うのが結論かな~。

大切なのは住み手が自分の家に持つ「自信」や「遊び心」なのかもしれない。それを人が見た時に賞賛と憧れと同意を込めて呼ぶのかもしれない。

狭小住宅サイコー!
ローコスト住宅サイコー!ってね。

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