『Pの密室』読了 - 54

Pの密室 (講談社文庫)
Pの密室 (講談社文庫)
島田 荘司

島田氏が生み出した名探偵・御手洗潔の子供時代の話しが、2話収録されている。幼稚園の時に解決した殺人事件の「鈴蘭事件」と、小二の時に解決した表題作の「Pの密室」の2話で、ある意味ではサイドストーリーみたいな感じ。

「Pの密室」には、事件現場となる建物の図面がバンバン入っていて、それに触手を動かされて読み始めた。私は間取り図が入っているミステリーは大好きで、それだけ買ってしまうタイプ。先日、ご一緒させて頂いたA栖川さんも同意見で、その話で親近感を感じたと言うのは、蛇足です。そんな感じで期待して読み始めたのですが、残念ながら物凄く読みにくかったです。「鈴蘭」の方が面白かったぐらいで、「Pの密室」は辛かった。

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なぜ私がガッカリしたかと言えば、それは私が図面が読めてしまうから。期待していた間取り図なのに、そこで興醒めしてしまったのです。また数字の説明が、必要以上に多く書かれていて、読むのが面倒になってしまった。

『斜め屋敷』を読んだ時も感じたのですが、建物が重要な意味を持つ時に、その図面(見取り図)の精度を少し上げるだけで、説得力が格段に増すと思うのです。読者に対して、理詰めで「どうだー!」と言えるのに、その部分がお座なりにされているので、読んでいて白けちゃうのです。確かに本書はミステリーであって、建築の教材では有りませんが、だからと言って、パッと観た瞬間に「こんなのありえねぇ~」と感じさせては、あまりにも勿体無いと言うもの。少しだけ図面を書き直す事でリアリティが生まれるのに・・・と、ミス好きの建築士は、その点だけを残念がるのでした。

例えば、この建物の図面では、1階から2階に上がる事が出来ません。三角形と言う特徴的な形をした2階ホール。このホールを介して、それぞれの部屋に出入りする訳ですが、この三角形のホールを成す三辺の大きさは、ミリ単位で求める事が出来ます。(理由は本文参照)このホールの中に設けられた階段ですが、常識的な判断から、「階段の幅」を想定し、「階の高さ(1階の床から2階の床までの高さ)」を想定すると、階段が設置できない事が分かります。たぶんこのままの形で、建物全体を二回りほど大きくすれば大丈夫だと思うのですが、今のままでは無理でしょう。

また、雨でぬかるんだ建物の周囲に、犯人の足跡が無かったトリックに関しては、現在の法律では実現不可能です。小説中の時代設定に基づいて、法律の検証をすれば、当時ならば可能だったのか否かも分かりますが、それは今度探してみたいと思います。
なんて感じで茶化してますが、建物トリックは嫌いじゃないので、未読の方はご一読を。
「P」の意味を知る時、もう一度、教科書を開いて復習してみて下さい(謎)

ちなみに、こんなふうに建築的な視点でミステリーを読んでいるのは、私ぐらいでしょうから、大抵の方には違和感無い筈です。また、御手洗少年の快刀乱麻ぶりは、名探偵コナンみたいで、嫌いじゃなかったです。

コメント(8)

みけねこ (2007年10月19日 15:51)

じゃあ、是非「密室キングダム」を(笑)。
間取り図がありますから。

ただ、密室だらけでお腹一杯になりますけれど…。

こんな屋敷に、こんな密室って…ありうるのか無理っぽいのか、専門家の探偵長様のご意見を賜りたく。

探偵長 (2007年10月19日 17:38)

お風邪の具合は如何ですか?
「密室キングダム」は、重そうですよね?(笑)今度、書店で見かけた際に、手に取ってみたいと思います。ただし積読本が増える一方なので、それを整理したい気もあり・・・(笑)

密室物トリックって、可能と言えば全部可能でしょうし、疑問視すれば全部怪しいですよね?(笑)
だから、そう言う点に関しては、気にしないで読むことにしています。気になっちゃうのは、建物の図面とかの方かも?←職業病

みけねこ (2007年10月19日 19:02)

風邪はなんとか持ちこたえました(笑)。
なまじ熱が出ないので、多少無理をしてしまうのが悪いんですが…。お騒がせいたしました。

職業病って厄介ですよね…。素直にものを見られなくて。
「密室~」は重いし高価いしで、コアなファンでもない限り、図書館にリクエストして入れてもらうのが一番です。ただこの本、両手に持って読めませんでした。二の腕がプルプルします(笑)。また、背表紙をぱっくり割ってしまわないか、気を遣いました…。

密室物って、脳内に三次元で映像化出来ないとチンプンカンプンだと痛感しました。私のゆるゆるおつむでは、太刀打ち出来なかったです(泣)。とりあえず、こんなややこしいお屋敷には、頼まれても住みたくはないですね。うっかり扉も開けられない…。

探偵長 (2007年10月20日 10:02)

風邪は大事にならずに何よりでした。
『密室キングダム』は、腕のトレーニングがてら、読むことにします(笑)

密室物は、あまりにも複雑怪奇なトリックは、読んでいて辛いです。紙に書いて整理したり、何度も読み返さなければならないと言うのは、ゲームとしては有りでしょうが、文学としては無しだと思います。そんなに辛い思いまでして、本を読みたく無いので(笑)

ちなみに忍者屋敷みたいな家って・・・リフォーム番組に、有りがちだったりして~(笑)

奇想の灰色猫 (2007年10月21日 01:16)

うーん。斜め屋敷は制度が良いと、読者に作家の目的が解ってしまいませんか?島田先生の図だけで、トリックと犯人と被害者の部屋を当ててしまった人間がいますからね…どーなんでしょう?

ところで、ぬかるみ駄目なんですか!?
むむむ…作家にゃいろいろと厳しい時代だのう…


小説にあまりリアリティを求めたら、「犯行現場~」の本の面白みも無くなっちゃいますよ~?

それでも建築士には矛盾で、素直に楽しめ無いんですよね…
どーしたら良いんでしょう?
私には難しい問題です(>_<)

探偵長 (2007年10月21日 11:00)

私がダメだったからと言って、作品の世間的評価全てがダメな訳じゃないですよね?読み手の好みがあるのは当然ですから、私の感想をもって「作家に難しい時代」と結論するのは、些か早計というもの。

ちなみに『犯行現場』の中で、書かせていただいた作品は、どれも私が好きな作品です。嫌いな作品なら、何度も繰り返し読み、その細部までを検証したりはしませんからね。

書きませんでしたが、ぬかるみは法律以前に、いろいろと難しい事は時代に関係なく想像に容易いのでは?でも、それをもって作品を否定している訳ではなく、私は好きじゃなかったと好みを書いたまで。

奇想の灰色猫 (2007年10月21日 15:59)

探偵長の感想=作家に厳しい時代ーでは有りません。
ぬかるみだけに限らず鍵一つとっても現在のあらゆる事が、密室やトリックを作りにくい作家に厳しい環境だ…というつもりだったんですが、言葉が足りず申し訳ありません。m(__)m

ミステリー好きというのも周知の事実。
推理小説の図面を実際建てるとしたら…?が、あの本の面白さの一つだと思うのです。
「推理小説全てが建築基準法を順守して書かれていたら、犯行現場の面白みの一つが無くなっちゃいませんか…?」
という事を書きたかったんです。
お気に障ったのなら申し訳ありません

いろいろと申し訳ありませんでした。

私、なんだかんだ言っても、島田先生の最近の小説は難しくて読んでなかったりしてます…。なので私は島田作品の事、何も言う資格無しです(-_-;)

探偵長 (2007年10月22日 09:51)

ひょっとして、この本は未読ですか?家の周りを舗装せずに、土のままでぬかるませておく事が、法律違反だと誤解してませんか?私が、ぬかるみに足跡を残さないトリックに関して書いたのは、そう言う問題はありません(笑)ただし、ネタバレになることは避けたいので、既読の方に分かる程度の書き方ですし、場合によっては既読の方でさえも、何処が法律違反なのか、難しいのはどの点なのかが分からない方もいらっしゃるかもしれません。でもそれを、この場で論じるのは、マナー違反になるので止めましょう。


それから物理的な密室を構成するには、確かに今の時代は難しいかもしれませんね。鍵の精度や窓の形状、建物の造り方や周囲の環境と、どれを取っても難しいと思います。反面、密室を作り上げる事だけを考えれば、正史の『本陣』のような建物の方が、遥かに難易度が高いと思います。また、カーの『夜歩く』に代表されるような密室ならば、時代は関係なく作る事が可能でしょう。

問題は説得力と、新たに生み出すのか、既存のトリックを複合的に組み合わせ、オリジナルにカスタマイズするのか?だと思います。

建物に意味があるミステリの多くは、本格好きの読者にとって、ある種のノスタルジーと革新への期待が込められているのかもしれないと思っています。
たまには、島田作品も如何ですか?(と言えるほど、私も読んでないけど/笑)

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