Essay 62 「亀裂」を読んでの感想

阪神・淡路の震災による多数の被害や、テレビに映し出される信じられないような光景が、今でもハッキリと思い出される。死者7000人以上の大震災だった。倒壊し無残に壊れ、焼けて落ちる建物の数々を、万感の思いで見ていた建築関係者も多かったはずでしょう。


震災の爪痕や心の傷も癒えないままの方が大勢いる今、偶然に手にした1冊の本が、この「亀裂 阪神震災が暴いた構造欠陥」だった。


震災当時から、建物の不自然な倒壊状況に疑問の声を持つ、建築関係者は数多くいた。設計ミスによる物、あるいは施工ミスによる「不自然な倒壊」は、人的被害だと言う声も上がったほどだ。しかし、この本の建物は酷すぎる・・・・・。


三宮に建つ鉄筋コンクリート造9階建てのテナントビル、その名は「IBビル」。ゼネコン最大手の清水建設が建てた物だ。昭和59年に建設されたビルは、築11年後に震災にあったことになる。建物の倒壊は免れた物の、あちらこちらのコンクリートは剥がれ落ち、ひび割れる多大な被害だった。


早速、施工した「清水建設」に、補修の見積もりを依頼した所、2億2千万円と言う数字が弾き出された。(ちなみに新築当時の建設費は、およそ5億円。その補修の凄さが想像できると言うもの)


ところが、この補修費の捻出に奔走するも金融機関からの融資も断られ、にっちもさっちも行かない状況のときに「建築基準法を考える会」と言う団体との出会いが有った。


この団体、建物の「構造的な安全性」を追及しようとする団体で、被災した建物の構造的な安全状況を確認したり、欠陥の有無を確認していたらしい。(勿論、建築のプロ集団です)


ところが、この団体が「IBビル」をチェックしたら、施工上の欠陥が次から次へと出るわ出るわ!写真も見たが、信じられないようなお粗末な作り・・・。


補修費用を払って、直してもらうようなレベルではなく「欠陥ビル」として正規に造り直してもらえとなったから、さあ大変!


オーナーは、頭から湯気を出しながら「清水建設」に怒鳴り込むも、のらりくらりと逃げ回る対応に、号を煮やし「出るとこに出てやる!」と言い出したから、今度は清水建設がおお慌て。なんだか、吉本新喜劇状態。


柱だろうが梁だろうが、ろくに主筋(鉄筋)も入ってないお粗末振り(>.<)
ようやく入っていた数少ない主筋も、施工が下手で壁から飛び出しているのを、モルタルを塗って誤魔化す始末。見上げた梁の下端(底の部分)には、キリンレモンとしっかり読めるジュースの缶が埋まっているのさえ見つかった。(キリンレモンは良い迷惑だろう)


ジュースの缶は他にも見つかり、柱も梁も鉄筋が入っておらず、入っているのはゴミばかり。行政に指導して貰うべく状況を報告しても、「天下の清水がまさか~」と、まるでオーナーの方が嘘つき呼ばわり。(こんな話、どっかで聞いたような気がする・・・・?)


「清水建設」は欠陥ビルと認め、全額自費で補修を了解するも、第三者に見せる事は一切しないと言う横柄な態度。「おまえら一体何様だ?」と、流石のオーナーも怒鳴ったとか、怒鳴らないとか・・・。


結局、話は2転3転しながらも清水建設なりの補修は完了したらしい。でもオーナーは、そんな曖昧な補修など認めないと、受け取りを拒否していると言う顛末。
95年に発刊された本だから、今はどうなっているのか判らないが、ハッキリ判った事はただ一つ。


「清水建設も、大したこと無いなァ~~~」と言う事。


読んでいる間、ズット悩んでいたのは、「一体、監理者は何やってんの?」と言う事。でも、記載されていた確認通知書のコピーを見て、ようやく納得!「設計者も施工者も清水建設でした~」と良くあるパターンで、オシマイ。


清水建設の全部の監督が、レベルの低い、悪い監督ではないだろう。中には、とっても優秀なモラリストもいるでしょう。でも、会社がこうやって「隠そう隠そう」とすればするほど「清水建設 全員悪党!」のイメージが増すのも事実と言えば事実じゃない?少なくても、この「IBビル」の顛末に関して、反論できないと思うけど?


なんで、警察や議員、大企業って失敗や過ちを素直に認めないんだろう?「ゴメンナサイ」で済む事ではないけれど、少なくともその後の対処次第では「やっぱり、良いとこもあるじゃない~」となるかもしれないのに。


欠陥住宅や欠陥建築問題って、作為的に欠陥施工や欠陥設計をしないと言うことと、本当に間違えてしまった事を見つけたときに「ゴメンナサイ」と謝り、誠意ある対処をする事で解決できると思うのですが?


第三者が監理する事の重要性と、大手だからと言って安心できないなァ~、と言う再認識をさせられた、1冊の本の読後感でした。
 

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