■Mysteryの家■ 『十角館の殺人』を検証する

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私にはミステリー小説を、読まなくなった時期があります。理由は単純に、少し飽きたから・・・。

勿論、勉強不足で読んでいない秀作が、多数あることは承知していたのですが、やはり当たりはずれを気にせずに楽しみたかったのが、読者としての本音でした。(つまり当たりはずれが多かったと言うこと)

それも出来れば国内の作品を、読みたかったのです。ところが残念ながら、勉強不足の私には思い当たる、お手軽な作品が見つからなくなっていました。ひょっとすると自分にそう言い聞かせ、ミステリーの世界から少しお休みしたかったのかもしれません。なにぶん、小学生の時代からミステリーを読みつづけていたので、他のジャンルにも目を向けたかったのでしょう。そんな私が、またミステリー小説の読者に戻るきっかけとなったのが、この「十角館の殺人」なのです。

「十角館の殺人」は綾辻行人氏のデビュー作で、文字通り正十角形の平面を持つ建物で繰り広げられる連続殺人の話です。孤島に建つ建物は天才建築家“中村青司”の設計によるもので、後に「水車館」・「迷路館」・「人形館」・「時計館」と時期を経て、“中村青司”が設計した建物で事件が起きる「館シリーズ」を書かれています。(ちなみに全部読みましたよ)

この中村青司氏なる建築家は学生時代から、数々のコンペに入選し高い評価を得た天才的な建築家のうえ、莫大な資産を相続し早々に隠遁生活を送るのです。この辺りは同じ設計の仕事をする私にとっては、夢のようなお話であやかりたいものですねぇ~。当然、仕事の依頼が来ても自分の興味の無い仕事はしない。

その中村青司氏の住まいが通称「青屋敷」と呼ばれる青い建物で、壁も床も家具さえもが青く塗られ、南海の孤島にポツンと建っています。その離れにあたるのが、舞台となる「十角館」。

青屋敷と呼ばれる母屋は火事で、4年前に焼けてしまいました。文中に焼け跡の状況を「瓦礫の山が…」と言う下りがあります。状況から見ても、「青屋敷」は木造かブロック造の建物だったと推察します。コンクリート造あるいは鉄骨造と言うことは、孤島であると言う条件から施工に問題があり設計の段階で除外されるはず。また、九州の大分県東部と言う地理的条件から考えると、台風に対する考慮も当然されているでしょう。当然、建物はブロック造だと考えて良さそうなのですが、実は木造のようです。(この辺りが天才のすることは良く判らん?)

事件の舞台となる「十角館」も、どうやら木造のようですねぇ。理由は書けないのですが確かに木造のようです。しかも、私の見たところ「在来工法」で建てられているように思います。在来工法とは、柱と梁 それを筋交いで補強する一般的な工法なのですが、この十角館は非常に地震に強い建物のようです。

建物の平面図は、本にも載っていますが読まれていない方の為に、簡単に書いてみました。

一部屋の大きさから推察すると、おおよそ50坪強はありそうな大きな建物です。

十角館 平面図

全体平面予想図

ホール中央に10角形のテーブルを備える建物面積は、およそ185平方センチメートル(55坪)。
相当大きな建物です。ひょっとすると、もう一回りは小さいかもしれません?

台形の部屋にはベッドに机・クローゼットの洋服掛けに姿見といった家具が備え付けられている上に、畳一帖程度の物を広げてもまだ若干の余裕があるといった広さなのです。台形という使いにくい部屋の形状にもかかわらず、このスペースが確保できるということは9帖程度の広さは有ったと思います。また、ホールには10角形のテーブルがあります。一人分の辺を60cm程度と仮定してもテーブル全体の大きさでは、直径で2.5m程度はあるでしょう。その上、ホールに開く角居室の扉は外開き。

十角館の個室

個室平面予想図

この中で畳一帖程度の物を広げて、 その周りを動き回るのだから、やっぱりこのぐらいは広いでしょ? ちなみにこれ9帖以上有ります。少し大きすぎるかなぁ?
とにかく工事は大変だったと思います。
言い忘れてましたけど、床は青司好みの青いカーペットが敷かれてました。

ホールのテーブルに座った状態で、部屋の扉を空けても人が通れるスペースがあるのだから、相当広いでしょ?ホールの直径で7m~7.5mは必要です。居室の広さとあわせて考えると、この十角形の直径は16m近くも有ることになるのです。その幅で高さが精々6m程度では、どう考えても建物のフォルムとしてはバランスが悪い。サーカスのテントを押しつぶしたようなイメージになるのです。

また、十角錐の形状を持つ屋根の頂上部にはトップライトが付いています。それも「おぼろ月」が確認できるという事は「透明ガラス製」の十角錐のトップライトだと考えられます。少し危険かも?

まず、防水の心配があります。これは、ガラスの接合部にコーキングし金属製のカバーを被せれば配慮は出来るのですが美しくない。ひょっとすると工場で一体成形で加工したのかもしれない。(お金がかかっていそうですねぇ・・・)

それから、割れることに対する危険も見逃せない。台風時に何かが飛んでくれば割れてしまう危険がありますからねぇ。平屋と言っても屋根の頂部になれば4.5m~5.0m以上の高さが有ると思います。勿論、屋根勾配を緩くして建物全体を薄く(低く)造れば、もう少し屋根の高さも低くなるでしょうが、この中村氏は他の建物を見てもゴシック風のデザインを好んでいるように感じます。だとすると、屋根は勾配を上げボリュームを出す建物になっていると考えられるからです。割れて落ちてきたら危険でしょ?

ホールの天井は、垂木が見えているので屋根と同じ形状の勾配天井でしょう。(う~ん、工事が大変そうですねぇ…)多分、他の部屋も同じように勾配天井だったと思われます。だって、その方がカッコイイですからねえ~。

でも良く考えると、ホールの直径だけでも7m以上有る上に中心部に柱の1本も立っていない。
しかも頂点には大きなトップライトが有る。一体屋根はどうやって支えられているのか、とっても不思議?

総合的に、この建物だけを見た感じでは天才建築家 恐れるに足らずといった感じですねェ~
何故って、建物の横幅の割には、平屋建てで高さが無いため全体のバランスが悪いように感じます。だから、建物のスケッチも書いたのですが文庫本の表紙のイメージを壊しそうなので、載せるのは止めにしました。(悪しからず)

建築基準法上は問題無いようですねェ。これなら、立派に建つと思います。(ただし屋根には相当苦労するでしょうが?)こんなことなら、時計館の考察にすれば良かったかなぁ・・・あれは絶対に基準法上建たないですからね。

出来ることなら自邸の「青屋敷」も見てみたかった~。

   

綾辻行人(あやつじ ゆきと)
87年に『十角館の殺人』でデビュー。

京都大学の「推理小説研究会」のOBでこの団体からは他にも多数のミステリー作家が誕生しています。
ご紹介した「館シリーズ」の他にも「緋色の囁き」や「殺人鬼」・「霧越邸殺人事件」など多数の作品があります。
ゲーム・マニアの方なら、きっと「弟切草」や「かまいたちの夜」の監修役としての方が有名かもしれません。
作品は全体的に妖しい雰囲気が漂い、背景に「乱歩の匂い」を感じさせます。個人的にはとっても好きな作風で、次回作も楽しみにしています。

  

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