■Mysteryの家■ 『笑わない数学者』を検証する

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お待たせしました!(って誰も待ってないか?)

私が今、一番気に入って読んでいる作家の作品です。作者は森博嗣氏。ところが、一番書きにくいのも事実です。と言うのは、この森氏は、某国立大学の工学部助教授。つまり現役の建築の先生なんです。そう、助教授をしながらの作家活動なのです。(私、権威に弱いもんで・・・)

だから、下手な事を書くと「笑止!」と叱られてしまいそうで、ビビッテいるのが本音ですが、まぁ、絶対に読まれることは無いと思うので、堂々と書いてしまいましょう。

まず、作品を読んだ最初の感想と言えば、やっぱり「理系の匂い」を感じるという事ですね。作品の主人公(つまり探偵役)が、作者と同じようにN大学工学部助教授の犀川氏と学生の西之園女史なのです。(ちょっとクイーンが入っているのか?)小説自体が、建築の世界を下地にしているので「理数系」の匂いがするのは、当然と言えば当然なのですが、それとはまた少し違うんですよね。

推理小説と言えども、文学ですから文系のフィールドにあるはずなのに、森氏の作品はまるで「数学の公式集」を読んでいるような切れ味があるんです。

事件の謎は、あちこちに出揃っている。 普通ならパズルのように一つずつ整理した結果、真相に至るのに、この犀川助教授は、ある瞬間にそれが全部「閃く!」と言った感じで繋がります。

アインシュタインは子供のころ、数学が苦手だったそうです。答えが先に閃いてしまって、そこに至る経緯が説明出来なかったからだそうで、この森氏の作品に登場する”犀川助教授”も、そんな雰囲気を持っています。つまり、天才肌。

読まれたことの無い方は一度お試し下さい。ちょっと珍味かもしれませんけどね。

さて話が大きく反れてしまいました。この「笑わない数学者」に登場する家に付いてなのですが、正直言って失敗しました。この作品を選んだ事を後悔しています。なぜって建物が解読不能なほど説明しづらいのです。

天才的な数学者「天王寺翔蔵」氏の自邸で、その設計者がまた天才的建築家「片山基生」。(なんで、こんなに天才的建築家が多いんだろう・・・?)もともとは、天文台だった建物を買い取って大改造した住宅で、その年の建築学会奨励賞を受賞したと言う建物。(ここまで書いた段階で、少し嫌になってきた)その名も「三ツ星館」。どうです、凄そうでしょう?でも驚くのは、これからです。

建物は三重県津市から車で1時間以上走った山の中にあります。ちょうど森の中を、その一角だけ長方形に切り取ったような真っ平らな広大な敷地。その敷地一面がコンクリートで、きれいに舗装されています。

四方を高さ4m程の煉瓦塀で囲われ、その長さは100m以上もある平らな場所。その中央部に「三ツ星館」は建っています。

なぜ「三ツ星館」と言う名前なのか?それは、正座のオリオン座を象られた所から来ています。建物は、元天文台だけあって三つのドーム型の建物を通路で結ぶと言う奇抜な形状。

そうそう、大切な説明を忘れてました。入り口のゲートから進んでくると、高さ5m程のブロンズ製のギリシァ時代の兵士の像、つまり「オリオンの像」が立っているのです。正確にはオリオンでは無いのですが、文中にも表現されているから良いでしょう。その重さ、推定10t近くあるのです。

物語は、「このオリオン像を跡形も無く消失さえ、また出現させる」と言う不思議な出来事から始まるのです。(これが、とても重要な謎なのです)

本を読んでみようと思われた方は、下の星座を頭に入れて読まれると、全体のイメージを掴みやすいと思います。オリオン座の中央に三ツ星とあるでしょう。

オリオン座

オリオン座

さてさてこの建物、中も外も充分に変わっているのですが、変わりすぎていて、全部を書ききれません。そこで、まず建物外観イメージから説明すると、建物はのっぺりとしたドーム形状の建物が3つ並んでいて、各ドームは渡り廊下で繋がっています。駐車場から階段を上り、正面ゲートを潜り抜けて正面のオリオン像を通り越すと、全く同じような大きさのドームが3つあると言った感じです。

外壁は、のっぺりとした打ち放しコンクリート製で、中央は白、向かって右奥は赤、左手前は青の間接照明の明かりが漏れています。そう、正面から見ると上の星座のように斜めにドームが、配置されているのです。オリオン像は、ちょうどM2の位置にあるのでしょう。外観のイメージは、そんな雰囲気です。

ん?チョット違和感が・・・?文中で犀川氏が建物の外観を、上のような感じで説明していたのですが、チョット変ですねぇ。建物は、元は天文台です。という事は、建物の屋根が開き、望遠鏡で星を眺めていたはずです。だから、屋根にその開口部が残っているか、「有ったという痕跡」が残っているはずなのに、それが無い?

大改造したと言うことは解かりますが、コンクリート打ちっ放し仕上げなんですよ。一体どこで、コンクリートを打ち継いでいるのだろう?それとも、建物全部を作り直したのかなァ?ちょっと、怪しい点を発見・・・って感じ。

まあいいや。それでは次に手っ取り早く建物の床面積を想像してみることにします。

建物のセンタードームは、プラネタリウムが設置されているホールになっているのです。居室は他の2つのドームに10室、その他にキッチンと倉庫が2室。計12室あります。ですから、プラネタリウムの大きさから、センタードームの大きさを想像するのが、近道と考えました。

そこで、プラネタリウムの大きさを調べてみたのですが、図Aのような小さ目の施設でも、最低直径13mは無いと、まともなプラネタリウムにはなりません。また図Bのような大規模なものでは20m前後、あるいはそれ以上と想像できます。

プラネタリウム 参考図

プラネタリウム断面図

天文台として使っていた事から、直径20m程度だと仮定すると一つのドームの面積は、およそ310平方センチメートル。ドームが三つ有るので、単純にその3倍で930平方センチメートルが、ワンフロアの面積と考えられます。

建物は平屋なのですが、実は天王寺博士は地下で生活しているのです。(変わり者だなァ~ でも天才だから仕方ないか?)

また、その地下が異様~に広い!天井の高さは、2階建て以上の高さ(およそ8~10m)もあり、平面は円形と記述がありますから、センタードーム分、丸々地下が有ると考えても良いでしょう。だって建物の外形を変える必然性がありませんからね。(この地下には、小さいけどプールまであるのです)

プラネタリウムの参考図

プラネタリウム平面図

計算すると建物の延床面積は、およそ1240平方センチメートル。およそ375坪。

もう笑うしかないほど広い家ですね。普通の住宅の敷地を40坪程度と考えると、9軒以上はこの建物の中に建つ事になる。これ、一体誰が掃除してるのでしょう?

建築基準法的には、1階部分は問題なさそうです。居室の採光・廊下の幅員・排煙設備・延焼ライン、どれをとってもRC造で造られている事も手伝って、全然問題無いでしょうね。

ただし地下を居住空間にしているのであれば、違反建築です(笑)
でもこれだけ大きいと、違反建築なんて言葉自体、意味が無い事かもしれません。
でも、違反は違反です(笑)

ちなみにこの「三ツ星館」には、2つの出入り口があります。と言っても、普通の住宅とは違い、玄関で靴を脱いだりはしません。土足のまま建物に入ります。

やっぱり誰が掃除しているのか、とっても気になるところです・・・。

出入り口はセンタードームの北側と南側の2箇所、これだけしかありません。280坪以上と考えられる広いフロアに、たった2箇所です。民家なら8軒分以上の広さなのに、たった2箇所は少ないだろ~と思ったのですが、天才の家だから許します。

三つ星館 建物全体のイメージ図

敷地全体予想図

さあ、外観と床面積が推察できれば、後は中だけです。

えっ!敷地の面積?100m×100mとしても1万平方センチメートルですが、それ以外にも、駐車場や山道などもあるので判読不能です。とにかく広いと言う事でご納得を。(民家50軒以上の敷地がコンクリートで覆われている事だけは確かです)

話を戻して、センタードームは2重ドームになっています。まぁ~プラネタリウムが有るので当然と言えば当然ですが。そのドームとドームの間を廊下がぐるりと回っています。厚いガラスで出来た床の下に照明器具があり、床下から明るくなっていると言るのと同時に、半球形のドームは壁と天井の境目さえ無く、チョット異様な空間に仕上げられています。その天井高は、ドーム頂部で10数mの完全な半球形。仮に舗装された部分が100m角程度だとすると、建物とのバランスはこんな感じかなぁ?

中央部には直径4m、高さ2mの円柱形のステージがあり、その上に星を映し出す機械が載っている。そのステージの周りには、ビリヤード台が並ぶと言うほどの広さがあり、ひょっとすると直径20mの想像は、狭いかも?とさえ思わせます。

反面、廊下には植物が植えられ、花壇さえある。空には星も浮かび上がる。でも、実際に外に出ると、草木1本も見えない一面のコンクリート。

そう!イメージとしては完全に中と外が入れ替わったデザインなのです。つまり、建物の中に自然を作り、外部に自然を排除したデザインで仕上げられているのです。凄いなァ~私も今度、何処かでやってみようかなぁ~。

全体平面図

平面予想図

さて客室なのですが・・・実はこれが推測できるほどの記述が無いのです。そこで、あくまで想像なのですが、各客室の大きさは大体同じ程度と仮定します。犀川氏は西之園女史と同室ですが、2部屋有るらしいのです。その他にはシャワーがあります。当然、トイレも有るでしょう。

また、室内は禁煙のためヘビースモーカーの犀川氏が、煙草を吸うためにドーム中央の喫煙スペースで煙草を吸うシーンも有りますし、コーヒーを飲んだり談笑したりしています。文中には、これ以上の詳細な記述が無く、私でも解読不能なので許して下さい・・・ごめんなさい。

天王寺博士が生活する地下には、寝室・バスルーム・図書室・コンピューター室・プラネタリウムの操作室・プールと言う部屋があるそうです。警察官が立ち入って調査した結果ですから、間違い無いでしょう!やったー!完全に建築基準法の「居室の採光確保義務違反」です!

こんなに堂々と指摘できるのも、珍しいです。と言う事は、「違反建築」でも建築学会賞は取れると言う事か・・・チョット安心した。

凄くお待たせした割には、建物の解読がアバウトでごめんなさい。正直、このコーナー、一番疲れます。だって書きすぎると事件の骨格がバレてしまうし、書かなければ解からないし・・・。(と、自己弁護です)でも、私は作品を読んだ時にはボンヤリしていたトリックが、こうやって書いてみてクリアになりました。

少しだけ作品の内容に触れると、ブロンズ像の消失に端を発し、第一、第二、第三の事件へと発展して行きます。そして過去へまで遡って行くと言う広がりと、展開の速さであっという間に読めてしまいます。

だいたい外に有るとは言え、重さ10tもあるブロンズ像を消失されると言う事自体、密室としての不可解な事件を想像させませんか?(密室の定義をするつもりはありませんが)

森ミステリーをご存知で無い、ミステリーファンの方は(それじゃあ、ミステリーファンじゃ無いか?)

どうぞお試しください。

森博嗣(もり ひろし)
1996年に「すべてがFになる」でデビュー。

某国立大学工学部助教授工学博士の、肩書きをお持ちです。つまり二足わらじの作家活動ですが、作風の切れ味の良さには定評があります。(結構~マニアは多いと思いです)
初期の犀川氏と西之園女史のシリーズには、「冷たい密室と博士たち」・「詩的私的ジャック」・「夏のレプリカ」の他多数。
また、現在は瀬在丸紅子シリーズの「黒猫の三角」・「月は幽咽のデバイス」・「人形式モナリザ」などの作品を出されています。

 

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