『建築トリック謎解きガイド』発刊記念★建築怪異ファイル.1――深夜1時、蛇口が鳴る理由

【CASE.1―深夜1時、誰も触っていない蛇口が「ドン!」と鳴る】

【謎の事象の説明】

古い木造二階建てアパートの一室に暮らす相談者の男性A。Aが悩まされているのは深夜に突然鳴り響く大きな音だった。

引っ越したばかりの2階の角部屋で、夜中になると突然大きな音がすることに悩まされていた。

物が落ちた様子も無ければ、下の階で人が騒いでいる様子も無い。しかも音は決まって深夜の1時頃。ひょっとして霊的な現象なのかと恐怖するのだが、不動産会社に問い合わせても前の居住者は問題なく引っ越していったという。

この謎の音の正体はなに? 解決法は?

【霊媒師の見立て】

間違いなく地縛霊の仕業ですね。前の居住者は怪奇現象を知っていた筈ですが、それを話せない事情があり、何食わぬ顔をして引っ越して行ったに違いありません。

音を止めたかったら、部屋の四隅にお清めの塩を盛り、枕元には米と清酒を供えておくことが必要です。

【建築士の見立て】

盛り塩をする前に、私の話も聞いていただけますか。それはたぶん「ウォーターハンマー現象」だと思います。ウォーターハンマー現象とは水道管の中を流れる水が、急に止められたことで配管の中で起きる衝撃波現象のことです。

イメージとすれば車に乗っている時に急ブレーキを掛けられると、人はつんのめるように前へ持っていかれますが、あの状態が配管の中で起きていると考えれば良いでしょう。勢いよく出していた水を急に蛇口を閉めたりすることで起こります。

その勢いは意外と大きく、建物を揺らすことさえあります。似たような事例とすれば「人の足音が聞こえる」「ビー玉を転がす音がする」「誰かが壁を叩く音がする」と言った不可思議な現象もまた、多くの場合はウォーターハンマー現象です。

また、水の衝撃波だけではありません。配管そのものが熱で膨張・収縮し、その際に音を出している場合もあります。

解決方法とすれば、専門業者に依頼して水道管内の圧力を調整して貰う事や、配管類をしっかりと固定し直すこと。そしてウォーターハンマーを抑える防止器具を設置することなどで対応できるので、大家さんに一度相談してみると良いでしょう。

ちなみに深夜の決まった時間にその現象が起きる理由は、アパート内の誰かがその時間に入浴や洗い物、洗濯と言った水を使っているのではないかと考えられますが、本当に誰かが使っていたら――の話ですけどね……。

【書籍の紹介】

いかがだったでしょうか? 幽霊の仕業かと思われた怪奇現象も、建物の構造や設備の仕組みを知っていると、全く違った「物理的な謎解き」に変わります。

5月29日発売の『建築トリック謎解きガイド』では、このような「建築の視点」からミステリ小説の謎に触れています。

「窓のない部屋はどうやって作る?」「隠し通路の図面上のごまかし方とは?」など、一級建築士である著者が真面目に考察した、建築×ミステリの新しい世界。ぜひ、本編でその謎解きを体験してみてください!

今日から発刊記念として、建築士の視点で解き明かす「建築怪異ファイル」を毎日一話ずつ、全六話にわたって公開します。

幽霊か、それとも建築か。

次回の怪異も、どうぞお楽しみに。


安井俊夫|天工舎一級建築士事務所
一級建築士・『建築トリック謎解きガイド』著者。建築や暮らし、本について日々感じたことを書いています。