Essay 38 厚過ぎるファイル

山田さんの奥さんは、分厚いファイルを広げて見せた。

「居間の出窓は、この写真みたいのが良いと思うんですぅ~。それに台所はこっちの写真のような感じにしたいし~、玄関はこれくらい広いと素敵だと思うんですけど~出来ますか~?」
(ううっ、すごいファイル。でも、さっきから話がゴチャゴチャだけど?)


奥さんの持って来た厚いファイルには、いろんな切り抜きが無造作に挟みこまれている。どこのお宅でも、家を建てようと決心するまでは、ご主人が主導権を握っているが、いざ動き出すとその主導権は、奥さんにスライドしてしまうらしい。


朝早くから夜遅くまで会社で働き、たまの休みとなれば、やれゴルフだパチンコだと家に居ないことが多いので、とても新しいことを考える時間的・精神的余裕がご主人には無いのかもしれない。


それに、いつもは亭主関白を気取っている男の人も、「結婚式と家の新築」に関しては なぜか奥さんの方が強い。結果的に「じゃあ、家のことは頼んだよ」と会社に行ってしまう。


本当に世の男性人は会社が好きだ。まるで「会社に住んで、家に出勤しているのではないか?」と思うほど、会社に頼っている。もっとも今のご時世では、会社など何時どうなるのか、判ったもんじゃないが?

そして、家造りは女性の仕事になってしまうのだが。
元来、面倒くさい事が嫌いな世の主婦が(失礼)家のこととなると、俄然張り切り出すから不思議である。 (これは女性だけが高校生の時に、家庭科の授業で家の間取り図を書いたことがあると言う、自信の現れだと私は思っているのだが、深読みし過ぎか?)


まずは情報収集と言うことになるのだが、どこから手をつけたら良いのか解らない。そこで、とりあえずはTVの住宅番組を見たり、モデル・ルームを見学したりする。しかし、それだけでは物足りない。やはり学習にはテキストが必要だと言う事に気が付き、本屋さんに行くことになる。


住宅関連雑誌は、山のように出版されているので、寄り取り見取りなのだが、何故か写真が一杯載っている奴を選ぶ。 「ニューハウス」・「住まいの設計」などから始まって、ちょっと専門的な「室内」や「住宅特集」まで読みあさる。


住宅の特集があれば「MORE」や「クロワッサン」まで、その触手は広がるらしい。(正直言うと、ここまで勉強している方は好きです。これ本当)


ところが悲しいかな、どんなに素晴らしい参考書があっても、勉強の仕方が判っていない学生の成績が上がらないのと一緒で、この奥さんたちも何を吸収し、学べば良いのかが判らない・・・残念。結果的に気に入った写真や、特集だけを切り抜くことになってしまう。 出窓の形やシステムキッチン、フローリングと言ったパーツの写真集めだけ。


また、今時なら世間で騒がれている「室内環境を悪化させる材料はこれだ!」とか「こうすればアトピーは防げる」みたいな特集は、特に大好きでその特集は必ず、付箋紙を貼っておく。(今、ギクッ!とした貴方の事ですよ)


ところが、何を雑誌から学べば良いか解かっていない上での、情報収集だから、その切抜きから、こちらに伝わってくるものがまるで無い。こちらが感じるのは、「面倒くさかっただろうな~」と言うことだけ。

いろんな雑誌から寄せ集めた写真を、一つの家にまとめ上げると、とんでもない家になってしまう事には、なかなか気づかない。(もっともだからこそ、それをまとめ上げる仕事が存在するのだが) 

家事をやってパートに行って、夫や子供の面倒も見て、その上今まで「建築のけの字」も知らなかった主婦が、ここまで頑張っているから本当は称賛物なんだけど。


だからこそ惜しい!ここまで一生懸命に勉強されるのならば、もう一歩進んで「書く事」をすれば良いのに。つまり、今の住まいの不満点や、新築後も使いたい家具や、捨ててしまう家具などの選別。それに、家族の生活習慣などを書き出すのです。


さらに、気に入った写真を見つけたのなら、そのどこが気に入ったのかを箇条書きでも良いからコメントしておくと、そのうちに自分たち家族にとって、何が大切で何を造りたいのかが、おぼろげながらでも見えて来るはず。


結果的に、設計者にも整理した情報を与えることが出来るし、設計する側もきちんとした計画が出来るという事になる。(惜しいでしょ~?でも75点は上げても良いかなァ~)


分厚いファイルを、作ることだって大変なことだと思います。だから、この山田さんの奥さんのように一所懸命な方には頭が下がるし、こちらも頑張ろうって気持ちになる。ただ、この小さな土地の中に、あの写真の物が、全部納められるかは自信がないのだが。

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