Essay 106 木曾路はすべて山の中

旅が好きな人は多いですね。旅の良さは日常と違う、「時間と空間」を感じられるからかもしれません。異文化も異国の地の人の優しさにも触れられるかもしれません。そう言った物に触れたいし、癒されたいと思い旅に出るのかもしれませんねぇ~。


昔、木曾に2度ほど行ったことがあります。1度は電車に揺られ1度は車で行ったのですが、2度目の木曾行きは「日本酒」を買いに行くのが目的だったんです。友人が失恋の痛手に落ち込んでいたので「酒でも飲みに行くかぁ?」と誘ったところ「じゃあ、支度しろよ」と言われ、私は訳も解らないまま車に乗り込みました。


「飲みに行くのに、車で行くのか?」と尋ねたのですが、彼は返事をしないんです。ただ「東名を下ろう」と言ったきり黙っています。(このとき運転していたのは私だし私の車・・・なんで私が運転手なの?)


で、6時間近く深夜の東名を飛ばして着いたのが「木曾」なんです。明け方、木曾の町に着いたのですが、朝早すぎたので取りあえず道端に車を停め仮眠をし、その後昔泊まったことがある旅館に荷物を降ろしました。宿で近くの酒蔵の場所を聞き、その足で酒蔵へ向かいました。


着いた酒蔵は、古の町並みに建つ見るからに「酒蔵」(あたりまえ)道の幅14~5mはある砂利道に車の陰はなく、ちょうど真中辺りに手で汲み上げる井戸があります。


道の両側には時代を感じさせる木造の建物が堂々と立ち並び、まるで江戸時代のセットのようですが、これは本物。紛れも無く、ここで人が住み人が生きている町並。


私たちは蔵に入り車で6時間かけて来た事を告げると、蔵人は利き酒と称し次から次へと酒を出してくれました。白い陶器の「ぐい飲み」は底に藍色の輪が3層描かれ、まさに利き酒用の器。11月と言えば日本酒の蔵出しの時期。それを蔵で飲むのですから雰囲気も手伝い、その透き通った酒の美味いこと。おまけに、「家で漬けた野沢菜を」なんて、つまみまで出してくれるものだから、もう利き酒なのか酒盛りだか良く解らない状況で!


当時は私も友人も酒が強くて、一人で一升飲むなんて全然平気な時でしたから、飲むわ飲むわ(笑)
今思えば嫌な客だったのでしょうね~。


結局朝から午後まで居たのですから、一体どれほど利き酒したことか?でもチャンと買うものは買いました。二人で7,8万ほどの日本酒を買いましたから、まぁ良いじゃないですか。


で、蔵を出て最初に何をしたかと言うと、道の真中にある井戸水を飲んだのです。私が汲み上げた水を奴が飲み、奴が汲み上げてくれて私が飲む。いや~、あの時の冷たい水は美味しかったなぁ~。


木曾の山々に囲まれ緑に溶け込む町・・・建物、空気、そして緩やかな時の刻み。あの時あの瞬間、確かに私も奴も辛いことを背負い、めげていたけど木曽路は確かに私たちを元気にしてくれました。

時々、ふと思い出すことがあるんです。町並みが、空気が、自然が、時が、私たちを元気にしてくれることが有ると言うことを・・・・・。そして、それを皆はいつも忘れてしまっていることを。だから人は、それを無意識に求めて旅に出るのかもしれないと。


「建築」とは、そんなことさえ可能にする“チャンス”を、与えられている仕事なのかもしれないと言うことをね。

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