Essay 134 雑居ビル火災を見て

「防災の日」の1日未明、日本最大の歓楽街、東京は歌舞伎町で起きた雑居ビル爆発火災。この爆発火災、昭和57年2月に有った「ホテル・ニュージャパン火災」を上回り、44人もの死者を出したそうです。
火災の原因も気になるところなのですが、私がもっと気になるのは「何故こんなに被害者が出たのか?」です。


雑居ビルを造る時には「都市計画法」は勿論の事ですが「建築基準法」・「消防法」・「風俗営業法」等と言った様々な規制をクリアしなければなりません。それは実に面倒で厄介な作業でも有ります。ですから建物を作ったばかりの時、つまり建築関係者が関与している時には法律を遵守する格好を整えているのですが、一度役所の検査が終われば、後はそのビルのオーナーや管理者の考え方次第になってしまいます。


例えば店のレイアウト上の都合で、邪魔な消火器を所定の位置から動かしてみたり、大切な避難梯子を押入れにしまったりしても次の立ち入り検査の時に、また元に戻しておけば良いだけなんです。


これは雑居ビルに限った事では有りません。街場のスーパーやデパートの階段室に、鉄製の防火扉が有るのを見たことがありませんか?そして、その扉を塞ぐように積み上げられたダンボールの山や、商品の陳列棚を?


そんな場所で一度火災が発生すれば、煙がアッと言う間に階段室を伝わって上階を包みます。今の火災現場での死者の殆どは、焼死ではなく一酸化炭素中毒死。階段を伝わって逃げるどころか、その階段からの煙に蒔かれてしまうのです。これじゃあ逃げようが無い。


階段を2箇所設けなさいと言う規定も有りますが、これも建物の大きさや用途によっては1箇所で良いよ、と緩和されてしまいます。(火災の有った雑居ビルも階段は一箇所だったらしい)


その代わり窓やバルコニーから避難梯子を伝わって、道路に逃げなさいと言う指導になるのですが、もし貴方が赤ちゃんを連れていたら?ようやく歩けるばかりになった乳飲み子だったら?腰の曲がったおばあさんだったらどうしますか?子供を置いて逃げられない親が、抱きかかえたままの姿で焼け跡から見つけられるということも有るのです。


先日読んでいた建築雑誌の中で「防犯設計を考える」と言う特集を見たばかりです。学校に不審者を入れない為には?雑居ビル内の店舗に強盗が押し入ったら?と言う内容だったのですが、造る側の姿勢と考え方を見直すと同時に、建物オーナー側も「命を守る」と言うことに関して考えて欲しいと思います。


デザインや合理主義が、優先してはいけない時も有るのです。私たちが阪神淡路の震災の時に見た、あの光景を忘れてしまっては、亡くなられた多くの犠牲者の死が無駄になります。


建物とは所詮、ただの無機物でしか有りません。しかし大切な命を守る無機物であると言う事を、忘れないようにしたいと思います。

犠牲者のご冥福和お祈り致します(合)

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