Essay 138 スタディ模型って?

住宅の設計をしていると、模型を作る事が良くあります。でも、設計者が作る模型を見る機会って、普通の人には殆ど無いんじゃないかなぁ~?なぜなら設計者が作る模型って、大抵が「スタディ模型」と呼ばれる物で、基本的には自分の為に作っていて、クライアントに見せる模型とはチョッと違うからなんです。


住宅設計の際に作られる模型は、大きく分けて2つあります。一つは設計図が出来上がった段階で作る「完成予想模型」。これはあくまでもクライアントに「こんな格好になりますよ」と言う事を見せる為の模型ですから、外観に色を付けたり窓も細かく作ったりします。最近のハウスメーカー辺りでは、契約しそうな顧客に最後の一押しをする時などにも簡単な「完成予想模型」を提示したりするそうです。大きさは
1/100程度が多く、手の中に入るぐらいのサイズが多いようですね。


これに対して、もう一つの「スタディ模型」と言うのは設計者自身が建物を考える時に、どんな形、どんな外観になるのかをシュミレーションする為に作る模型なんです。だから大抵は外壁に色も無ければ、窓だって細かい細工は施しません。具体的に例を挙げてお話しましょう。

 


  これは今、計画している住宅の最初に作ったスタディ模型なのですが、ダンボールに色紙で窓を貼っただけの簡単な物です。(ちなみにカルピスが入っていたダンボールで作っているので、裏から見ると書いてあります) それと、割り箸で作った柱も立ってたりします。「随分お粗末だなぁ~」なんて思われるかもしれませんが、自分が解れば良いだけなので、意外とシンプルなんです。自分が見て「ここの窓はもう少し大きくしよう」とか「屋根の形はこっちの方が綺麗だ」なんてことを考えるための模型なのでね。

で、2つ目に作ったのがこれ。材料がダンボールからスチレンボードに変わっている為、白く見えます。フォルム(形)を見るのに、色は必要ないですから。最初のスタディから、屋根の形状が変わっているのがお解りになりますか?割り箸の柱も無くなってます。

さらに3つ目のスタディですが、自分なりに何となくまとまってきたので、庭や車を配置し、全体のイメージを掴もうと努力している跡が見られます。やはり2つめのスタディとは屋根の形や、左手前に出っ張っている部分が変わってきています。それと窓を少しだけチャンと作っています

さらに4つ目のスタディに入っています。(頑張ってるなぁ~>自分)
今度は屋根を片流れに戻しています。ただし最初に作ったスタディの屋根の流れ方とは違いますね。


逆に樹木などの装飾はしていません。3つ目のスタディで雰囲気を掴んだので、もうその必要が無いから。

ここまで来ると屋根が取れちゃったりして、部屋の配置が覗けます。3つ目のスタディの窓には「乳白色のプラスチック板」が貼ってあるのですが、4つ目のスタディには貼ってありません。


これは3つ目までは「外観の形状」を模索することがメインだったのに対して、4つ目のスタディは、部屋の配置と窓の形状との関連を気にしているからなんです。


  この程度まで作ってあると、クライアントに見て頂いても、凡その雰囲気は理解して貰えます。勿論、あくまでも自分用に作っているので、少々の図面との食い違いや演出はご勘弁いただきますがね。


今回の場合、3つ目のスタディを見て頂き、屋根形状を修正する事で全体的なプランにご了解いただけました。
そして最終形態の4つ目がこれ。設計者自身、図面だけでは判断しにくい部分を、模型を作ることによって理解していきます。


「こっちの窓を開けると、あっちの窓を通して、あの木が見えるなぁ~」なんて眺めちゃうわけです。

「でも本人としては3つ目も、なかなか捨てがたいぞ」なんて思うと、思わず並べてみたりしちゃいます。でも、これは模型だから出来る事。現実には出来ませんので、まさに夢の競演状態!


時には眺めながら飲んじゃったりもします。まぁ設計作業において一番大変なのがこの時期なのですが、楽しいのも事実。じゃなきゃ~夜通しやらないって!


ところがスタディ模型は残念な事に、殆どが捨てちゃうか壊しちゃいます。この模型の特徴は作りながら「考える事」なので、その大きさも1/50程度がほとんど。


つまりこの模型でも新聞紙を広げた程度大きさになるんです。今回の計画だって4つも有るんですから、全部取っておいたら置き場所が無くなっちゃいます。(そうでなくても狭いんだから~)


だから要らなくなった模型は「大怪獣」に踏み潰されてしまうというわけ(笑) 仮に完成模型に近いスタディだとすれば、施工者に理解を深めて貰う為、現場に置いておくこともあります。この場合、本物の建物が完成する頃にはボロボロになっちゃいます。ですから綺麗な状態で、スタディ模型が残っている事は稀なんです。


それからどんな設計者でも、こんなふうにスタディ模型を作りながら考えてくれるかと言えば、それは違うかもしれません。なぜならこれ、意外と作るのが面倒なんです。ですから適切な計画期間と設計報酬を頂かないと、とても作ってる余裕が無いのが本音。それと、こんな模型を作りながら設計してくれる人と言うのは、よっぽど住宅設計が好きか、設計と言う行為に真摯に向き合ってくれる人。残念ながら、そんな人じゃなきゃ~今時スタディは作りません。


私が作ってるから言うわけでは有りませんが、設計者を選ぶとき、その事務所に有る模型を見ると言うのも一つの手かもしれませんと言ったら、うちには幾つ模型が残っているか心配になってきましたが。


もしハウスメーカーや大工さん、あるいは設計者と家を作っている方で、「こんな模型が欲しいなぁ~」と思われたら、設計士さんに言ってみて下さい。時間や報酬の関係で、無償で作ってくれるかは解りませんが、若干の費用をお支払いすれば、簡単なものなら作ってくれる筈ですから。


それと「建築模型」を専門に作って下さる模型屋さんもいます。この方にお願いするには平面図と、高さが解る立面図・断面図などをご用意下さい。金額は多少の差は有るでしょうが、私が作った3つ目・4つ目程度のスタディ模型程度なら4~5万円てところでしょうか?


住宅の模型のこと、少しはご理解頂けましたか?設計屋さんが「家を設計する」って事は、こんな作業の繰り返しなんですよね~。 じゃ!また。

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