■Mysteryの家■ 『長い家の殺人』を検証する

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歌野晶午氏のデビュー作です。「長い家」とありますが、正確に言うとロッジと言った宿泊施設なわけで「住宅」ではありません。この宿泊施設で起こった「不可思議な殺人事件」をきっかけに、第二の事件へと発展して行く展開でトリックの巧みさが全てだと思います。ただ、残念ながら私は第一の事件の時に、そのトリックに気が付いてしまいました。正確に言えば「こんな感じかなぁ~?」と言った程度の発想だったのですが、実は正解だったのです。勿論、犯人や動機は判りませんし、随所に散りばめられたキーワードを楽しむことは出来ました。人の心理を上手に利用したトリックや幾重にも貼られたキーワードが、なかなか見事で充分楽しかった作品です。

一言だけ作品の為に言い訳するとすれば、私がトリックに気が付いたのには理由があるのです。
多分、他の方にはなかなか気が付かないと思いますよ。(詳しくは言えないんだなぁ~)

さて、舞台となる「長い家」のロッジなのですが、このロッジがまた広い!まぁ、住宅では無く宿泊施設だから広いのは当たり前かもしれませんが、建物のボリュームを想像するのが嫌になるほど広いのです。

ぼやいていても仕方がないので、早速検討してみましょう。まず一部屋の大きさから推察しますと、客室は部屋の両側にシングルの2段ベッドが設けられています。その間の部分には、後で簡易型の机が設置されるとあるので、おおよそ1.2m程度でしょう。部屋全体の間口としては3.0mと考えて良いでしょう。部屋の奥行きもそれほど広くなさそうなので(実は記述がないので想像です?)

ロッカーと2段ベッドそれに窓を開けられるスペースと想像すれば3.6m、つまり6.5帖程度の広さぐらいと考えるのが適当だと思います。

長い家の平面図

全体平面予想図

図面は上が北ですよ。アルファからオミクロンまでが客室なのですが、変な部屋番号ですよね?

ロッジのオーナーが星の観測が好きなので、こんな番号になっているのです。
それにしても長い廊下でしょ?この廊下には窓が一つも無いんですよ。
基準法がどうこう言う前に、健康に悪そうですよね?
本には略図も載っているのですが、その略図通りだとテニス・コートは、とても入りません。

結果的にホールや厨房はこんな形になると思います。
(上図建物の幅は45.5mとありますが、実は50.0mはあります。ごめんなさい)

その部屋が15室も、一直線に並んでいるのですから廊下の長さだけでも45mもありますよ!

チョット長くないですか?歩くのが嫌になりますねぇ~。しかも食事や風呂のたびに、この廊下を行ったり来たりするんでしょう?歩きでがありますよねぇ。しかも廊下の内法幅は1.0m程度、天井の高さは2.0m程度と狭いうえに、窓が一つも無いんですよ・・・・・・息苦しそう・・・。

昼間でも、暗い・狭い・長いの『三重苦』・・・出来れば泊まりたくないなぁ~。

玄関を入って、直ぐ右側に有るホール兼食堂のスペースですが、4人掛けのテーブルが15組有ると考えるのが自然でしょう。ざっと計算しても75平方センチメートルぐらいは有ると思います。オーナーの部屋が20帖程度、浴室は男女別の家族風呂程度と考えると、別図のような広さになります。

この広さをオーナーが、一人で管理していくのは大変そうですね。他人事として考えても、ゾッとしますねぇ~。だって、お客さんが泊まる場所なのですよ?適当な掃除じゃ済まないでしょ?オーナーの苦労は、想像しがたいですねぇ・・・。

チョット話がそれてしまいましたが、平面図の話に戻しましょう。実際に、各部屋の大きさやホールなどの大きさから推定していくと実は困った問題が発生します。客室の南側に3面有るテニスコートが収まらないのです。テニスコートはシングルでも23.77m×8.23m有ります。これが3面となると建物の大きさとマッチしなくなるんです。そこで、私なりに解釈した建物の平面図を書いてみました。

異議の有る方もいらっしゃるでしょうが、でもこんな感じなんだと思いますよ。建物は、およそ440平方センチメートル。これに、スタジオが3室で60平方センチメートル。合せると500平方センチメートル。約151坪になります。

どうです、なかなか大きな建物でしょ?ところが建物が大きいことが、結果的に仇になってしまいました。なぜって、推理小説に登場する家の話を書き始めて3話目で、ようやく現れた違反建築!

やったー!ついに発見したぞ!(失礼・・・)

具体的に検証しましょう。建物は木造らしいと言うことを前提に検討します。しかも「宿泊施設」と言う特殊建築物であることが前提です。(建築基準法上の扱いとしてですよ)

まず、平屋建てだから耐火建築の要求は無い・・・これはOK!

階段も無いから、歩行距離の問題も大丈夫。当然、竪穴区画の必要性も無い。ところがところが、廊下の幅には問題がありそうですよ。クックック 

個室

個室平面予想図

廊下の幅はおよそ1.0m、天井の高さはおよそ2.0mとあります。廊下の照明器具は恐らく、埋め込み式のダウンライトなんでしょうね。問題はロッカーの大きさをどの程度に扱うかで悩んだんですが、図中では90cm程度の物を記入してみました。実はこれが一番の謎かもしれません・・・。

この建物の場合、片側居室だから廊下の有効幅は最低でも1.2mは必要です。でも、本文中にはおよそ1.0m程度と有りますよ。いけませんねぇ~、まあ 本文中の表記は素人の判断ですから勘違いかもしれませんが、ここは大事な所なんですからねぇ~(読まれた方には理解できるはず)

それから、一番奥の部屋からの「避難距離」にも問題がありそうですよ。耐火建築物で無いとすると50m以下ですからねぇ。それから廊下には窓が無いとのこと、これ基準法で言うところの排煙無窓ですね。つまり火事が起こった際に逃げるための廊下が「煙」の溜まり場になってしまうんですよ。これもダメでしょう!その他として防火区画の問題もありそうですよ。

と、言うふうにいろいろ問題点を指摘しましたが、実際には古い建物だと「既存遡及」と言って免除される規定もあるので、一概には「全部ダメ!」とは、言いきれないですけどね。う~ん、この辺が難しい所ですが、感触としては「違反建築物」ですね。

でも、どうしてミステリーに登場する家は こう大きな建物ばかりなのでしょうか?たまには住宅密集地の中に立つ15坪の家で次々と起こる奇怪な連続殺人・・・なんて話は無いもんですかねぇ?

まぁ、所帯染みていて書きにくいでしょうし、犯人も判りやすいかもしれませんけどね?(それじやダメか?)

歌野晶午(うたの しょうご)
88年に「長い家の殺人」でデビュー。

普通ならばデビュー前に1作や2作は作品を書いてからデビューするのらしいのですが、この方は作家になると決心してから「処女作」を書き始めたと言う珍しいタイプの作家です。「天才肌」の作家といわれる所以でしょうか。そのせいか、5作ほど発表した時点で「もう書けない」と一時筆を折るんですが、、数年後に執筆を再開しています。
作品には「白い家の殺人」・「動く家の殺人」など家を書名にした作品も多数有ります。

 

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