『首無館の殺人』月原渉著/読了

貿易商を営む斜陽な宇江榊家の令嬢・華蓮は、目覚めると今までの一切の記憶を無くしていた。家族や使用人に囲まれた生活の中で、徐々に日常を取り戻すが、自分の住む館の奇怪さに不安を感じ始める。外界から閉ざされ、大きな中庭を囲む様に四つの建物が廊下で結ばれた館。そして中庭の中央には出入口の無い奇妙な幽閉塔が建っている。その館の中で突如起きた惨劇。首の無い死体、別人の首を膝に抱えた第二の首の無い死体が見つかる。首の無い死体の意味は、殺人の目的は!――

「タイトル買い」した一冊です。がしかし、タイトルで買ってはいけないという作品でした。面白かった点よりも、残念な点が勝ってしまいます。まず第一に、この作品は絶対に建物の見取り図があった方が良い! ミステリ読みは、意外と上手に間取り図を頭の中で想像する人が多いと思います。たぶん私もそんな中の一人ですが、本作の間取りは全然思い浮かばなかったのです。だから中庭の中央部に建つ幽閉塔が、外部から出入り不可能と言われても全く理解できませんでした……そんなわけないジャン! てね。また幽閉塔の大きさがイメージできないので、それが建つ中庭の広さもイメージ出来ませんでした。

「中庭の広さなんて、どうでもイイじゃん!」と、思われるかもしれませんが、そうではありません。これをなんとなくでもイメージできないと、事件が理解できなくなってしまうからです。中庭の平面的な形状は四角形をしており、その中央部に幽閉塔が建っています。四角形をした中庭の四つの頂点には四つの棟が建てられています。そして北側頂点部だけには中庭への出入り口扉が設けられていますが、いつもは施錠され、その鍵は当主だけが持っています。四つの棟はすべて二階建てと思われます。そして何より重大な事は、中庭を眺めることが出来るのは、たった一つの部屋だけで、それ以外は廊下も含めて中庭に面した窓やバルコニーは一切ないということ。

斜陽したとはいえ、一時はかなり羽振りの良い貿易商の館なのですから、小さな館だとは思えないのです。勿論、中庭に建つ幽閉塔の大きさに関しても同じことが言えます。そして幽閉塔から建物までの離隔距離だって、それなりの広さがある筈です。だって余裕のある広さが無いと、カッコ悪いですから。

この程度の記述だけで事件の舞台をイメージすることは難しく、本当にボンヤリした物だけしか理解できませんでした。これは本当に勿体ないと思いました。

 

他にも「首無館」と呼ばれる謂れですが、建物の屋根に載っていた石像鬼=ガーゴイルを、気味が悪いからと言う理由で、その首を全て切り落としたことが由来だとありますが、そのことにも違和感を覚えます。もともと横濱の居留地に建てようとしていた擬洋風建築の建物を買い取り、今の場所に移築する形で建て直した建物。移築だとすれば一度解体しているのですから、あらためて組み立てる際に屋根のガーゴイルを取り除いてしまえば良いだけの話しなのに、首だけを切り落として載せるのは不自然です。

もっと言えばガーゴイルとは本来、雨水の排水溝として設置されるものが多く、例えて言えばライオンの口からお湯が出てくる温泉みたいな感じで使われていた物なので、その目的で設置されているならば、屋根の上には載っていません。だから屋根の上に載っている場合には、魔除けなどの宗教的な意味が大きいのです。例えて言えば沖縄の家の屋根に載っているシーサーみたいな感じです。そんな用途の物だとしたら、なおさら首だけを切り落として載せる意味が解りません。こんな話が冒頭で書かれているので、余計に建物に関する不思議な点ばかりが気になってしまい、肝心の事件に集中できませんでした。

他にも主人公の使用人シヅカが、なぜときどきドイツ語で喋るのかも不思議でした。まぁ、事件の骨格には関係ないので良いのですが。とまぁ、そんなこんなで全然理解できなかった作品でした。今年の締めの一冊が本書なのは嫌なので、続けてもう一冊読みましょう。

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