『ノースライト』横山秀夫著/読了

クライアントから「面白いですよ」と、頂戴した一冊。

バブルの波に翻弄され、建築家としての夢や希望を無くした青瀬だったが、信濃追分の地に一軒の家を設計することで無くした自信を取り戻す。だがその家の設計を依頼した吉野夫婦は、家に住むことなく忽然と姿を消してしまう。家には一脚の椅子が、まるで浅間山を望むかのように置かれているだけだった。その椅子は日本をこよなく愛したドイツの建築家ブルーノ・タウトの椅子なのか? 椅子の出自を探すことで、夫婦の消息も掴めるのではないかと考えた青瀬は、熱海、仙台へとタウトと吉野の足跡を辿るのだった――。

骨太のミステリでした。横山さんと言えば昭和64年に起きた誘拐事件を描いた『64』で有名ですが、あの重厚な感じは本作でも同様に感じられます。主人公青瀬の生い立ちや、青瀬を拾ってくれた事務所の所長でもある岡嶋の苦悩、そして消えた吉野一家の人生と、タウトの生涯と足跡。さまざまな人生が交錯し織り成す数奇な運命が、謎の根源にあります。ちなみに本作では血みどろの殺人劇や、奇怪な密室は登場しません。そう言う物を「ミステリ」と定義している方には向かない「ミステリ」ですので、念のため。

作品名の『ノースライト』とは、北側の明かりを意味します。一般的に家を建てる際に求めるのは「南側から射す直射日光」が多いと思いますが、この南側から射す陽は万能ではありません。時間によって変化する陽は、明暗の差が激しいと共に、日焼けなどの問題も起こしますし視認性が落ちる場合もあるでしょう。ところが北側からの明かりは終日、その明るさに大きな変化が無く、直射日光ではないために日焼けなどの問題も起こしません。視認性にも優れた、目にも優しい明るさを提供してくれます。日本では「南の太陽サイコー」という風潮がありますが、欧米の中には「北側の明かりがサイコー」という考え方もあるほど。ですから美術館などには、南側の採光では無く、北側の採光が適していると言われています。

青瀬が設計した信濃の家は、北側の明かりを上手に取り入れた、住む人を優しい明かりで包み込む、柔らかく静けさを感じさせる家でした。本作品の『ノースライト』とは、そんな意味を持つ深く重いミステリでした。本を頂戴したクライアント様には、この場を借りて御礼申し上げます。

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