『壁の男』貫井徳郎著/読了

帯に「最後の一撃に涙」と、書かれていますが、まさに!その通りでした。文学として、またミステリとしてお見事でした。血みどろの殺人事件も起きませんし、密室もバラバラ死体も出て来ません。名探偵も謎の怪人も登場しませんが、綺麗なミステリでした。解説を書かれている末國善己氏は、乱歩の言葉を引用して「探偵小説とは難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれていく経路の面白さを主眼とする文学である」と、作品の特徴を端的に説明されていますが、まさに言い得て妙です。作品は五章に分かれており、それぞれ時代が違います。主人公である伊苅(イカリ)という男の半生を描いた物語です。

物語はSNSで話題になっている、小さな町の話しから始まります。その町の家々の外壁には、なんとも奇妙な絵が描かれており、不思議な光景を造り出していました。その絵を描いたのが主人公の伊苅。彼がなぜ上手くも無い奇妙な絵を描くのか? それが気になったフリーランスのライターが、伊苅の過去を調べ始めるのですが――と言う感じのお話です。

全399頁の物語は、かなり淡々と進みます。事件を期待して読み始めたミステリ好きは、何処まで行っても何も事件が起きないことに戸惑う事でしょう。私は戸惑いながら読みました。途中、読むことがかなり辛く苦しい章もあり、一旦は読むのを止めてしまおうかと思ったほど。でも読み続けて良かったです。

「最後の一撃」とはエラリー・クイーンのミステリ小説のことでは無く、ラストの一行で読者の思い込みを覆す、あるいは驚愕の真実が解き明かされる作品のことを言い、本作もまさに最後の一行で数々の謎が全て腑に落ちました。そしてその真実に涙を流します。こういうミステリ、好きです。御馳走様でした。

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