『在宅介護のためのリフォーム。押さえておきたいポイントと注意点』|Houzz掲載記事の補足

建築コミュニティサイト「Houzz」に書いたコラム記事「在宅介護のためのリフォーム。押さえておきたいポイントと注意点」が、Houzzのメールマガジンで「今週のおすすめ記事」として紹介されました。

自分が書いた記事が、今でもこうして取り上げていただけることに感謝します。ただこのコラムを書いたのが2023年だと言う事も踏まえて、元記事の内容に少し補足説明を加えた形で、在宅で家族を介護することに関してご紹介したいと思います。

在宅介護のためのリフォームと考えると、どうしても「手摺を付ける」「段差をなくす」といった話に意識が向きがちです。もちろんそれらも大切です。実際、介護保険の住宅改修でも、手摺の取付け、段差解消、滑りにくい床材への変更、引き戸等への変更、便器の取替えなどが主な対象になっています。けれど実際の在宅介護では、それだけでは足りません。寝室とトイレの距離、介助者の動ける広さ、浴室や脱衣室の寒さ、玄関から道路までの移動のしやすさまで含めて考えておかないと、本当に介護しやすい家にはならないからです。

在宅介護の改修は、まず排泄動線から考えたい

在宅介護で現実的に一番大切なことは、毎日の排泄に対する対応に関してです。食事や団らんよりも先に、トイレへ無理なく行けることが、家での介護を左右します。国土交通省の高齢期向け改修ガイドでも、夜間に寝室からトイレへ行きやすい環境を整えることや、トイレに近い部屋を寝室として使うこと、寝室からトイレまでの手摺の下地、段差の解消、照明器具の増設などを行うことが示されています。

実際の計画でも、在宅介護を考えるなら、まずは「どこで寝て、どの経路でトイレへ行くのか」を見直すべきです。廊下を長く歩かなければならない家、夜中に方向転換が多い家、建具の開け閉めに手間がかかる家は、それだけで負担が大きくなります。見た目のきれいさよりも先に、寝室とトイレの位置関係を見直すことが何よりも大切です。

本人のためだけでなく、介助者のための広さも必要になる

在宅介護の住まいづくりで見落とされやすいのは、「本人だけが動ければ、それで良いというわけでは無い」ということです。要介護状態が進めば、家族やヘルパーが横に立つ、後ろに回る、支えながら向きを変える、といった場面が必ず出てきます。国交省の在宅サービス対応住宅の資料でも、トイレ・洗面・浴室を一体的に整備して介助スペースを確保すること、トイレに長手方向から出入りできるように工夫すること、介護居室は6畳から8畳程度を目安に考えること、ベッドの両側からアクセスできる配置も考えられることなどが示されています。

つまり、在宅介護の改修は、本人のためのバリアフリーであると同時に、介助のための空間づくりが大切になります。トイレが狭すぎて介助者が入れない、ベッドの片側が壁で移乗がしにくい、洗面や浴室の前で身体の向きを変えにくい。こうした問題は、図面上では小さく見えても、暮らし始めると大きなバリア=障害になってししまいます。

浴室は手摺だけでなく、寒さへの配慮も欠かせない—断熱

浴室改修というと、滑りにくい床、出入口の段差解消、手摺の設置がまず思い浮かびます。もちろんそれは基本です。ですが、もう一つ忘れてはならないのは温熱環境に関してです。居室、廊下、浴室、トイレ、洗面・脱衣室などの非居室と居室との間で大きな温度差が生じないようにし、必要に応じて暖冷房設備を設けること、ヒートショックを防ぐため適切な温熱環境を確保することが大切だと国交省の改修ガイドには示されています。消費者庁も、高齢者の浴槽内での溺水死亡は高い水準で推移しており、平成23年以降は交通事故による死亡者数より多いと注意喚起しています。

ですから、在宅介護の浴室改修は、単に「入れる浴室」にするだけでなく、「安全に入れる浴室」にしておく必要があります。脱衣室が寒い、浴室だけ極端に冷える、暖房のないまま冬の入浴を前提にしている。こうした状態は、手摺を増やしただけでは解決しません。

玄関から道路までを含めて、介護の動線になる

家の中だけ整えても、外へ出にくければ在宅介護はうまくいきません。通院、通所介護、訪問診療、訪問介護などを考えれば、玄関から道路までの経路もまた介護の一部です。厚労省の住宅改修の解釈通知でも、手すりや段差解消の対象には、玄関から道路までの通路等が含まれています。国交省の改修ガイドでも、玄関近くに福祉用具などに利用する電源や宅配ボックスを設置すること、通行しやすい玄関扉や門扉にすること、駐車スペースには十分なゆとりを確保することなどが挙げられています。

玄関に一段大きな段差がある、門扉の開閉がしにくい、雨の日に足元が滑りやすい、送迎車が寄せにくい。こうしたことも、在宅介護が始まると急に不便として表面化します。室内の手すりと同じくらい、外への出入りのしやすさも大事です。

先に浴室改修の話に触れましたが、場合に拠っては「訪問入浴介護」というケアを受ける可能性も有ることを考慮する必要があります。「訪問入浴介護」とは、特別なチームがご自宅に、簡易的な浴室を運び入れ、そこで介護者を入浴させるというサービスです。浴槽をはじめとした関連器具は移動に適したように軽量化されてはいますが、それでも介護車両を家に横付けできるに越したことは有りません。その辺りも考慮しておくことは大切です。

訪問介護や訪問看護を受ける家として考えておく

在宅介護は、家族だけで完結するとは限りません。状態によっては、ヘルパー、訪問看護師、訪問医、訪問入浴など、さまざまな人が家に出入りします。国交省の在宅サービス対応住宅の資料では、介護居室を玄関近くに置くこと、場合によっては勝手口近くに置いて家族の生活動線とサービス提供者の動線を切り分けること、夜間訪問に備えてキーボックスなど鍵の扱いに工夫すること、介護居室近くに洗面や給湯機能を設けること、医療機器等を想定してコンセント数や位置に配慮することなどが示されています。

ここまで考えると、在宅介護の家は、単に家族が暮らす家ではなく、支援を受けながら暮らしを続けるための場所だということが分かります。今は元気でも、将来を見据えるなら、少しだけ先回りした備えをしておく意味は大きいと思います。

介護保険でできる工事と、できない工事を分けて考える

在宅介護の改修相談では、「どこまで介護保険でできるのですか」と聞かれることがよくあります。介護保険の住宅改修は、主に手摺、段差解消、床材変更、扉変更、便器の取替えなどが対象で、支給限度基準額は20万円、原則として事前申請が必要です。

一方で、住まいを本当に使いやすくするためには、それだけでは足りないことも少なくありません。部屋の配置の見直し、介助スペースの確保、断熱や暖房の改善、収納の整理、コンセント位置の変更、照明計画の見直しなどは、制度の対象外でも実際には重要です。だからこそ、在宅介護の改修は「制度でできる工事」を並べるだけではなく、「その人の暮らしに何が必要か」を考えて組み立てる必要があります。

住まいを直すのではなく、暮らしを続けるために整える

在宅介護のためのリフォームは、家の一部を直す工事ではありますが、本質的には「暮らしを続けるための準備」だと思います。本人が少しでも自分でできることを残し、家族の負担を減らし、必要になれば外部サービスも受けやすくする。そのためには、手すり一本だけでは足りず、寝室・トイレ・浴室・玄関・外構まで含めて、住まい全体を見直す視点が必要です。

以前のHouzz記事を、あらためてご紹介いただいたのを機に、今回はその補足を書いてみました。在宅介護を考えた時、何から手を付ければよいのか迷う方は多いと思います。そうした時は、部分的な工事だけを急がず、まずは暮らし方と動線を見直すところから始めるのが良いのではないでしょうか。

在宅介護を見据えた住まいの改修や、今の家でどこまで対応できるのか気になる方は、天工舎一級建築士事務所までご相談下さい。