前回は、子供に個室を与える時期が早すぎると、家族と過ごす時間や自然な会話の機会を減らしてしまうことがある、という話を書きました。個室は、自立を育てる場である前に、与え方によっては親子や家族間の分離を早める場にもなり得る、ということです。
では、思春期に入った時期の子供ではどうでしょうか。この時期になると、幼い頃とは違って、子供には明らかに「ひとりになれる場所」が必要になります。親と同じ空間にいることが息苦しく感じられることもあれば、自分の気持ちに外から触れられたくない時期もあります。ですから、思春期の子供部屋は必要です。そこは、あまり迷うところではないと思います。ただし、ここで考えたいのは、思春期の子供に必要なのは、単に「閉じこもれる部屋」なのか、ということです。
子供部屋の役割は、隠れ家であって孤立ではない
思春期の子供にとって、自分の部屋はある種の「隠れ家」と言っても良いでしょう。親から少し離れ、好きなものを置き、自分だけの時間を持つ場所。その意味では、この時期の子供部屋に「隠れ家」のような性格が生まれるのは自然なことです。家の中に、自分だけの精神的な空間が必要になるからです。
けれどもその隠れ家が、そのまま孤立の場所になっては困ります。家族と同じ屋根の下にいながら、完全に切り離されてしまう部屋では、住まいとして少し寂しい。必要なのは閉じこもるための個室ではなく、守られながらも家の中との繋がりを失わない場所なのだと思います。
第二話で、「自立と孤立は違う」と書きました。思春期の子供部屋にも、まったく同じことが言えます。自分の時間を持てることは大切ですが、そのことと家族との関係が途切れてしまうこととは、別の話です。
思春期に必要なのは「干渉しない気配」
幼い頃、子供にとって親の気配は、そのまま安心感でした。親が近くにいること、声が聞こえること、様子がうかがえることが、居心地の良さにつながっていたはずです。
ところが思春期になると、同じ「気配」でも意味が変わってきます。近すぎれば煩わしい。干渉されれば鬱陶しい。けれど、まったく存在を感じないほど切り離されると、それはそれで落ち着かない。思春期とは、そういう少し面倒な年頃でもあります。
つまりこの時期に必要なのは、「親の気配があること」ではなく、お互いの存在は感じられるが、干渉はしない距離なのだと思います。
これは言葉にすれば簡単ですが、間取りに置き換えると案外むずかしい話です。たとえば、子供部屋の扉を開けた瞬間に居間の真ん中が見えてしまう家と、廊下や曲がり角を介して少し視線がずれる家とでは、部屋から出てくる時の気持ちはかなり違います。また居間の一角に、親と目を合わせなくても座っていられる椅子やカウンターが、あるかどうかでも違ってくるでしょう。声をかけたければかけられる。けれど、かけなくても不自然ではない。そんな中間的な場所が、思春期には案外大切なのだと思います。
子供部屋に必要なのは、広さよりも音と視線と戻りやすさ
思春期の子供部屋に本当に必要なのは、豪華な設備でも、やたら広い床面積でもありません。必要なのは、気持ちを静められること、音や視線からある程度守られること、そして家の中に戻ろうと思えば戻れることです。
遮音性がまったくなく、隣の部屋の会話が筒抜けでは落ち着きませんし、逆に家の中心から離れすぎていて、ひとたび入ると完全に孤立するような場所も考えものです。音をやわらげ、視線をずらし、出入りにわずかな緩衝帯を持たせる。そうした工夫は、図面の上では小さな差に見えても、実際の暮らしの中ではかなり大きく効いてきます。それは大きな作為で無くても構いません。扉を開けた時に見える家族との視線の重なりを考えたり、部屋の外に小さな棚や廊下を設けるといった小さな工夫で良いのかもしれません。
第二話で、住まいは関係を支える器である、と書きました。思春期の子供部屋もまた、その器の一部です。子供を部屋に押し込めるための箱ではなく、難しい年頃の気持ちを受け止めながら、家族との関係が切れてしまわないように支える器であるべきでしょう。
住まいがその役目を果たしていれば、子供は部屋にこもることがあっても、家族から消えてしまうわけではありません。ひとりになれることと、ひとりぼっちになることとは違う。その違いを支えるのが、住まいの役目なのだと思います。
子供部屋は、やがて家の一部に戻っていく
もうひとつ、家づくりの中で忘れたくないのは、子供部屋は永遠に子供部屋であり続けるわけではない、ということです。家は一生の買い物だと言われますが、その一生の中で、子供が家にいる時間は案外限られています。思春期のために必要だった個室も、やがて役目を終える時が来ます。
その時、その部屋が家の中で宙に浮いてしまうようでは、少しもったいない。
だから私は、子供部屋は「いずれ家に戻ってくる部屋」として考えておく方がよいと思っています。将来は書斎にもなる。客間にもなる。家族の本棚を置く部屋になるかもしれない。二つに分けた部屋を再び一つに戻せるようにしておくのもよいでしょう。
子供の成長を受け止める器でありながら、その後はまた家全体の一部として再生していく。そういう柔らかさがあってこそ、子供部屋は無理のない存在になるのだと思います。
思春期の子供に必要なのは、閉じこもるための部屋ではありません。
そこは、自分を守ることができ、気持ちを整えることができ、けれど完全に孤立しない場所であるべきなのでしょう。隠れ家のようでいて、家の一部でもある。そういう少し矛盾した条件を満たすことが、思春期の子供部屋には求められているように思います。
子供部屋についての話は、ひとまず今回で一区切りにしたいと思います。
小田原周辺で家づくりをご検討の方は、間取りを描き始める前の段階でもご相談ください。子供部屋を含め、ご家族の成長や暮らし方に合った住まいの考え方を、一緒に答えを見つけていければと思います。
執筆者:安井 俊夫(天工舎一級建築士事務所 代表)
「自分たち家族は、この先どんなふうに生きていきたいのか」
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