【23年目の答え合わせ・第2回】カビは失敗ではなく「安全の証」――化学物質のない家が守り抜いた23年

御連絡をいただいた当初、メンテナンスを御希望されている範囲は、外壁・屋根・窓周りのコーキング等といった建物外部に関しての御相談でした。ですが、実際に建物を拝見しながらお話を伺うと、室内に関しても気になる箇所があることが分かりました。その一つが「浴室」でした。

D.BOX■化学物質を排除した仕切らない小さな家

この家が完成したのは2002年12月。設計作業はその半年以上前の2002年上旬でした。このとき、建築基準法には24時間換気の設置義務や、建材に含まれる化学物質に対する規制はまだ設けられていませんでした。(ホルムアルデヒドの含有量規制などが盛り込まれたのは、翌年の2003年7月からのことです)

しかし、クライアントである御夫妻はかなり深刻な化学物質過敏症の症状に悩まされており、日常生活の中でも大変なご苦労をされていました。

たとえば、新しいレストランが出来たので行こうと思っても、店の扉を開けた瞬間に「この店には入れない」と引き返さざるを得ない。他の方なら全く平気な空間でも、建材に含まれる接着剤や塗料のわずかな成分にさえ、敏感に反応してしまう状態だったのです。

ですから、御自宅の計画において、平面形や外観は比較的早くまとまりましたが、「使用する材料の吟味」にはかなりの時間を要しました。その結果、屋内には既製品の建具(扉)は一切設けず、浴室も腰までをタイル張りとし、壁・天井には「無塗装の木材」を貼る仕様とすることになりました。

勿論、浴室内に使用する木材ですから、防水や保護の観点からすれば塗装を施すのが一般的です。しかし、その塗料が原因で生活することが困難になり、家人の体調に悪影響を与えるならば、塗装することに意味はありません。「命と健康を守ること」を最優先に判断したのです。

そんな経緯で作られた浴室も23年が経ちました。日頃から丁寧にお手入れをしていただいていますが、無塗装の木材である以上、年月とともにカビや汚れが発生するのは自然なことです。今回はその辺りも含めて、綺麗にリフレッシュしたいというご要望でした。

<画像は新築当時の浴室の様子>

メンテナンスとしては、表面のカビや汚れを削り落とし、人体に有害な成分を含まない洗剤で除去した上で、御夫妻の体調に影響を与えない安全な撥水剤を塗布して対応する予定です。同時に、浴室と洗面所の換気扇も最新のものへ交換し、排気能力を向上させることで、浴室内の湿度を下げて環境を整える手助けとします。

一般的に、お風呂場の木部に生えたカビは「劣化」や「失敗」と捉えられがちです。しかし私は、この家のカビをそのようには考えていません。

それは、ご夫妻が安心して暮らせる環境を大切と考え、化学物質を排除した必然的な結果です。23年間、ご夫妻の日常を静かに支え続けてきた、この家なりの確かな証なのだと思っています。

次回、第3回で一先ず最終話です。

外壁、そして浴室のメンテナンスを通して見えてきた、この家がこれほどまでに「良い表情」を見せてくれる秘密と、家づくりにおいて最も大切なことについて、お話しします。


執筆者:安井 俊夫(天工舎一級建築士事務所 代表)

「自分たち家族は、この先どんなふうに生きていきたいのか」

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