先日、天工舎一級建築士事務所で設計を手掛け、築23年を迎える住宅のオーナー様から、建物のメンテナンスについて、ご相談をいただきました。久しぶりに現地を訪れ、建物の前に立ったときの印象とすれば、「建物がとても良い歳の重ね方をしている」と、いうものでした。
外観は奇をてらわず、それでいて周囲の風景に自然と馴染んでいる。こうした佇まいは、設計だけでなく、住み手の方が大切に扱ってきた時間の積み重ねによって、生まれていると感じました。
「変えたくない」という御希望
今回のご相談は外部メンテナンスについてですが、オーナー様から最初に伺ったのは、「この外壁の色や質感が気に入っているので、できれば変えたくない」という御要望でした。
築20年を過ぎた住宅の場合、外壁の塗り替えと同時に、色を変える提案を受けることも多いと思います。実際、「せっかく足場を組むのだから」という理由で、全面的なイメージを刷新したようなリフォームに話が進むケースも少なくありません。
しかしこの家の場合、「変えない」という選択が、自然に受け入れられていました。設計した当時、長く付き合える素材の選定と、建物の表情を選んでおくことを、御提案談させていただきました。さらにはメンテナンスが必要な際にも、余計な工事や手間を減らすことも想定していました。
23年前に考えた「メンテナンスの分け方」
この建物は、1階と2階で外壁の仕上げを分けています。1階は塗装仕上げ、2階はガルバリウム鋼板の素地仕上げです。これは見た目のデザインだけでなく、将来のメンテナンスを見据えた計画でした。
1階は脚立などで手の届く範囲で、部分的な塗り直しができるように塗装仕上げとしています。実際に13年前には、足場を組まずに1階部分だけの塗装工事を行っています。 一方、日常的には手届かない2階は、耐久性の高いガルバリウム鋼板を採用しています。
その結果、23年経った現在も大きな劣化は見られず、今回は塗装ではなく、洗浄によって本来の質感を戻す対応としています。
一般的には、20年前後で外壁全面の塗り替えと足場設置が必要になるケースが多く、工事規模も費用も大きくなりがちです。この家の場合、メンテナンスのタイミングと内容を分けることで、工事を分散させることを考え、結果的に負担を抑えることができています。
足場を組む「本当の理由」
では今回も足場は不要かというと、そうではありません。今回は建物全体に足場を組むことを想定しています。その理由は外壁材そのものではなく、サッシ廻りなどのコーキング(防水材)の劣化に対するケアが必要だからです。
どんなに耐久性の高い外壁でも、窓周りのコーキングには必ず寿命があります。ここを適切な時期に更新しないと、見えない部分から建物を傷めてしまうことになるからです。
足場は一度組むだけでも数十万円単位の費用がかかるため、「いつ組むか」「何のために組むか」を、整理しておくことが非常に重要です。この家では、外壁のためではなく、防水更新のタイミングに合わせて、初めて全体足場を設けるという判断をしています。

長く住むために、最初に考えておくこと
建築費が上がり続ける中で、どうしても初期費用に目が向きがちです。しかし実際には、家は建てた後にどのように維持していくかで、総額も手間も大きく変わります。
・どの部分が先に傷むのか
・どこは後回しにできるのか
・足場を組むタイミングをどう考えるか
こうしたことを設計段階で整理しておくことで、20年後の判断がシンプルになります。20年後のメンテナンスまで具体的に想像して家を建てる方は、実はそれほど多くありません。ですが、その差が将来の負担として確実に現れてきます。
今回は外部についてのお話でしたが、実は室内でも、23年経ったからこそ見えてきたことがあります。次回は、「お風呂場のカビ」にまつわる少し意外な話をご紹介したいと思います。
執筆者:安井 俊夫(天工舎一級建築士事務所 代表)
「自分たち家族は、この先どんなふうに生きていきたいのか」
ご家族の想いを大切にし、時間が流れて変化していく慣れ親しんだ物理的な器としての家づくりを、お手伝いしています。小田原周辺での住宅設計や、日々の積み重ねを大切にした無理のない省エネリフォームなど、住まいに関するご相談は、お気軽にお寄せください。
お電話でのご相談:0465-35-1464
お問い合わせフォーム:https://www.k-tantei.com/contact/
天工舎一級建築士事務所 ウェブサイト:https://www.k-tantei.com/