「影」のある暮らし――ミステリから読み解く落ち着く家の灯り

少しずつ気温が高くなる日が増えてきました。街では半袖シャツ一枚で歩く人も増え、季節の移り変わりを感じています。そんな陽気の中、また電気料金が値上げされるというニュースを耳にします。本当に困ったものですね。 今回は、その「電気」に関連して、私が設計の現場で常々感じていることを少し書いてみます。

日本の家の「照明計画」は明るすぎる?

住宅の設計をしている時に、いつも悩ましく、そして大切だと考えているのが「照明計画」です。そもそも日本の家は、一昔前までは部屋の天井の真ん中にシーリングライトを設けて、空間全体を隅々まで明るくして「はい、出来上がり!」という形で造られていました。

時代が変わり、照明器具がダウンライトなどに変化しても、やはり「天井から部屋全体を一様に明るく照らすこと」が、基本となっているように思います。 でも海外の家の照明をイメージしてみてください。部屋のあちこちに電気スタンドが置かれ、少し暗がりを残した部屋で夜を穏やかに過ごしている印象はありませんか? この違いは、一体どこから来るのでしょう。

ミステリ小説が描く「暗闇」と「影」の正体

私が好きなミステリ小説の世界では、夜や暗闇は「恐怖の対象」として描かれることが一般的です。 「突然、照明が消える」 「嵐の夜に停電する」 「暗く長い廊下の先が見えない」 ……といった具合です。

なぜ人は暗いだけで不安になり、その空間に恐怖を感じるのでしょうか。きっと、その暗闇の中に「何かが居る」から怖いのではなく、「何が潜んでいるのか分からない」ことに恐怖を感じているのだと思います。

そのせいなのでしょうか、現代の日本の住宅は、まるで部屋の中から「影」を完全に消し去ることを目的としているかのように、隅々まで均一に明るく照らすことが多いように感じます。

ずっと昔の日本では、人は行燈(あんどん)の明かりで暮らしていました。今で言う電気スタンドのようなものです。部屋全体を均一に照らすのではなく、必要な場所だけをぼんやりと照らす。だから昔の日本の家には、今よりもずっと豊かな「影」がありました。 やがて電気が発明され、夜でも昼間のように明るく暮らせるようになったことで、住まいの風景は大きく変わりました。ですがその一方で、私たちは「影のある空間の心地よさ」を、少しずつ失っていったのかもしれません。

意図的に「影」をデザインする落ち着く家づくり

ミステリ小説の世界では恐怖として描かれる「影」や「見えないこと」。 だからこそ現代の住宅は、影を消すように設えられているのかもしれませんが、光で影を完全に消し去った空間は、本当に落ち着ける場所になっているのでしょうか。

夜の住まいは、昼間のように均一に明るくするより、少し暗がりを残した方が、かえって張り詰めた神経が休まり、心が落ち着くことがあります。人は光だけで暮らしているのではなく、光と影のグラデーションの中でこそ、本当の安心を感じていると考えています。

意図的に「影」を造るように照明を考えてみる。 そうすることで、部屋の印象が変わるだけでなく、静かに過ごす穏やかな時の流れを感じられるような、新しい暮らし方が生まれるはずです。 「そんな時間の流れる家を造りたい」と言っていただけたら、きっと楽しい家造りの夢を共有できると思っています。

ちなみにこうした「空間の気配」や「光と影」がミステリの中で、どのように機能しているのかについても、5月29日発売の著書『建築トリック謎解きガイド』で触れています。もし興味を持っていただけたら、そちらも手に取っていただけたら幸いです。


執筆者:安井 俊夫(天工舎一級建築士事務所 代表)

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