家を建てる時の打ち合わせの中で、平面図やパース・模型は空間の形を教えてくれます。しかし、そこで営まれる暮らしの音までは表現されていません。
朝、誰かが階段を下りる音。深夜に流れるトイレの排水音。子供部屋から聞こえる友人との会話。そうした生活音は、実際に住み始めて初めて現実のものとして気付くものです。
ところが、音の問題は設計段階では意外と話題になりません。打ち合わせでは間取りや収納、外観デザイン、設備機器の選定に時間が割かれ、音の伝わり方まで具体的に検討される機会は決して多くないからです。
私自身、多くの住宅を見てきましたが、音への配慮が十分になされている住宅は決して多くないと思っています。設計者も施主も、完成した家でどんな音が聞こえるのかを、具体的に想像する機会が少ないからです。
しかし実際には、家族の発する生活音は思っている以上に暮らしへ影響を与えています。快適なはずの住まいがストレスの原因になることもあれば、家族同士が無意識に遠慮し合う原因になることもあります。
今回は、住宅の中で起こりやすい音のストレスと、それを和らげるための間取りや設備計画について考えてみたいと思います。
1.音は「聞こえる」のではなく「気になる」が正しい
例えば現在の生活の中でも、家族が発する生活音が「気になる」場面は多いと思います。
ここで大切なのは、音の問題は必ずしも音の大きさだけで決まるわけではないということです。同じ音でも気にならない時もあれば、妙に耳についてしまう時もあります。
家族団らんの会話は心地よく感じても、眠ろうとしている時に聞こえる話し声は気になるものです。つまり問題なのは「聞こえること」そのものではなく、「聞きたくない時に聞こえてしまうこと」なのだと思います。
例えばオープンなLDKや大容量の食洗器は確かに便利です。しかし実際に暮らし始めると、食洗器の運転音がテレビの音を聞き取りにくくするなど、図面では想像しなかった「気になる」が現れることがあります。
また、夫婦の寝室と子供部屋が上下や隣同士に配置されると、足音や話し声が想像以上に伝わることがあります。子供が友人と電話で話す声やオンラインゲームの声が日常的に聞こえるようになると、お互いが無意識にストレスや気兼ねを感じることもあるでしょう。
さらに最近の住宅では24時間換気が義務付けられているため、多くの室内ドアにはアンダーカットと呼ばれる隙間が設けられています。この小さな隙間は空気を通すだけでなく、音も伝えてしまいます。
家族で過ごす家だからこそ、毎日の小さな「気になる」が積み重なり、ストレスにつながるのだと思います。
2.間取りの工夫で造る「音の緩衝地帯」
音の問題というと、特殊な防音室や高価な遮音材を思い浮かべるかもしれません。しかし、まず設計者が考えることは、間取りによる「音の緩衝地帯」を造ることです。
例えば寝室と子供部屋、あるいはリビングとトイレが壁一枚で接していると、音は直接伝わりやすくなります。そこで二つの空間の間にクローゼットや物入れを配置することで、音の影響を和らげることができます。
また、水回りの配置も重要です。寝室の真上にトイレや洗面所を配置すると、排水音や足音が気になることがあります。そのため音の発生源を、くつろぎの空間から出来るだけ離して配置することが基本になります。
音の設計で大切なのは、音を完全に無くすことではありません。音が発生する場所と静かに過ごしたい場所との関係を考え、適切な距離を設けることなのです。
3.図面に描かれない裏側の配慮
間取りで大枠を整えたうえで、さらに細かな部分にも目を向ける必要があります。
例えばトイレや洗面所の排水管は、配置によっては音を伝える経路になります。そのためパイプスペースの位置を工夫したり、排水管に遮音処理を施したりすることで、音の影響を抑えることができます。
また、室内建具にもそれぞれ特徴があります。引き戸は開放的で便利な反面、構造上どうしても隙間ができやすく、音が漏れやすい傾向があります。一方で開き戸は比較的気密性を高めやすく音を遮るには有利です。
こうした壁の中や建具の選択といった見えない配慮が、日々の暮らしの快適性を支えています。
4.見えないものをデザインするということ
音の問題は完成後に気付きやすいため、住宅設計の初期段階から検討しておくことが大切です。特に寝室・子供部屋・トイレ・洗面所の位置関係は、暮らし始めてからの満足度を大きく左右します。
音の問題はカタログにも、綺麗な完成予想図にも現れません。しかし実際には、家族の暮らしや人間関係に静かに影響を与えてしまいます。
お子さんが成長し、生活時間が少しずつ変わっていく5年後、10年後。その時も家族がお互いを尊重しながら、心地よく暮らせる住まいであることが大切です。
平面図には描かれない「音」を想像してみること。
それもまた長く愛せる住まいづくりの、大切な第一歩なのだと思います。
執筆者:安井 俊夫(天工舎一級建築士事務所 代表)
「自分たち家族は、この先どんなふうに生きていきたいのか」
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