【CASE.2 深夜に鳴るインターホンの怪】
【謎の事象の説明】
郊外に建てられた土地付きの建売住宅。それが周辺相場よりかなり安い価格で売りに出されており、若い新婚夫婦は衝動的に購入を決めた。
だが引っ越し直後から、二人を悩ませる奇妙な出来事が起こり始める。毎晩、決まって深夜になると、玄関のインターホンが「ピンポーン」と鳴るのだ。寝ぼけ眼でモニターを確認しても、そこには誰も映っていない。
慌てて玄関を開けても、外には人影一つない。最初は悪戯かと思っていた。だが、それが毎晩続くうちに、夫婦は次第に気味悪くなっていく。
梅雨時の湿った風が、夜更けの玄関から流れ込む。
「……昔の知り合いとかじゃないよな?」
夫が冗談半分に口にした一言から、夫婦の空気は少しずつぎくしゃくし始めていた。
果たしてこれはストーカーの嫌がらせなのか。
それとも――。

【霊媒師の見立て】
「うむ、これは間違いなく地縛霊の仕業ですねぇ。破格の値段だったのでしょう? おそらくこの土地には、何か曰くがあるのでしょうな。
毎晩ピンポンを鳴らしているのは、霊が助けを求めているのかもしれません。
止めたければ、家の四隅に盛り塩を置きなさい。枕元には米と清酒も忘れずに」
【建築士の見立て】
またあなたですか。盛り塩も良いですけど、その前に私の話も聞いてもらえませんか。
土地にまつわる曰くを調べるより先に、まずはインターホンを開けてみましょう。今は梅雨時ですし、この家、かなり安かったんですよね?
おそらく工事を急いだせいで、インターホン周りの防水処理が甘かったのでしょう。そこから雨水が入り込み、内部で誤作動を起こしている可能性があります。
実はインターホンの屋外機って、強い電気では動いていないんです。そのため湿気や小さな水滴でも、誤作動することがあるんですよ。
後日、電気業者に確認してもらったところ、やはり子機内部の基板には水滴が付着していた。機器を交換し、防水処理をやり直したことで、深夜のインターホンは鳴らなくなったという。
もっとも——。
不思議なのは、なぜ毎晩きっかり同じ時間にだけ鳴っていたのか。
それだけは、最後まで分からなかったそうだ。
【書籍の紹介】
いかがだったでしょうか? 幽霊の仕業かと思われた怪奇現象も、建物の構造や設備の仕組みを知っていると、全く違った「物理的な謎解き」に変わります。
5月29日発売の『建築トリック謎解きガイド』では、このような「建築の視点」からミステリ小説の謎に触れています。
「窓のない部屋はどうやって作る?」「隠し通路の図面上のごまかし方とは?」など、一級建築士である著者が真面目に考察した、建築×ミステリの新しい世界。ぜひ、本編でその謎解きを体験してみてください!
今日から発刊記念として、建築士の視点で解き明かす「建築怪異ファイル」を毎日一話ずつ、全六話にわたって公開します。
幽霊か、それとも建築か。
次回の怪異も、どうぞお楽しみに。
安井俊夫|天工舎一級建築士事務所
一級建築士・『建築トリック謎解きガイド』著者。建築や暮らし、本について日々感じたことを書いています。