住まいの生理学04|オープンな間取りで失われるもの――プライバシーと家族の気配のバランス

壁や扉を極力なくしたオープンな間取りは、たしかに魅力的です。しかしその一方で、「家の中で一人になれる余白」を失いやすい間取りでもあります。家族の仲が良いからこそ、少しだけ距離を取れる場所が必要になることがあります。

最近の家づくりでは、玄関を入ってすぐにLDKへ繋がり、玄関ホールや廊下をできるだけ省いた間取りが好まれています。限られた面積でも、余計な壁や柱を無くすことで、部屋の開放感は大きく変わるからです。

すべての人に「開放感=快適」ではない

「家族の気配を感じながら暮らしたい」と、考える方が多いことは自然なことです。ですが、本当に壁や扉を減らした家は、すべての人にとって暮らしやすいのでしょうか。開放感はたしかに大切です。けれどもそれは同時に、自分一人がこもる場所や、人に見られずに過ごすことの出来る空間を減らしてしまうことでもあります。

家づくりを考える時には、家族との繋がりだけではなく、「少しだけ離れられる場所」があるかどうかも大切だと思います。

 家族だからこそ必要な「呼吸のような間隔」

家族と時間を共有する場所を「公(おおやけ)」だとすれば、一人で気持ちを整えられる場所は「個(こ)」の空間と言えるかもしれません。ところが、開放感を重視した間取りでは、その「個」の空間がほとんど無いことがあります。

仕事から帰ってきた時

家事や育児で疲れている時

少しだけボーッとしたい時

趣味や読書に集中したい時

思春期の子どもが家族と距離を取りたい時

家の中で「少し一人になりたい」と感じる場面は、決して特別なことではありません。それは家族仲が悪いからではなく、長く一緒に暮らしていくために必要な「家の中の余白=遊び」のようなものだと思います。

しかし視線も音も常に繋がっている家では、その小さな距離を取りにくくなることがあります。

リビングと階段が一体化し、どこへ行くにも家族の前を通る間取り

扉が少なく、家中に音が広がっていく空間

キッチンの音、テレビの音、オンライン会議の声、子どものゲーム音

開放的な空間は、それらを「家族の気配」として感じさせる一方で、ときには逃げ場の無さにも繋がります。

写真として美しい家と、暮らしやすい家

近年はSNSや住宅雑誌でも、ワンルームのように繋がったLDKの家が、数多く紹介されています。視線が抜け、明るく広く見える空間は、とても魅力的です。けれども写真として美しい家と、実際に暮らしやすい家は、必ずしも同じではありません。人は、常に誰かと繋がっていたいわけではないからです。

広さではなく「距離」と「死角」をデザインする

それは「完全に閉じた個室を増やすかどうか」と考えるのではなく、「少しだけ距離を取れる場所があるか」が大切だと思います。それは個室を設けようという話ではありません。

たとえば

LDKの中に少しだけ視線が外れるL字型の配置を取り入れる

リビングの一角に、小さなアルコーブ(くぼんだ空間)をつくる

階段脇に小さなカウンターを設ける

少しだけ壁を立てて視線を遮る

そうした小さな工夫だけでも、人は意外なほど安心できるものです。

家族の気配は感じながらも少しだけ気配を消せる場所

完全に閉じないまま一人になれる場所

そうした「余白」が、家族との距離感を無理なく整えてくれることがあります。

家族との繋がり方や距離感は、決して家の広さや帖数だけで決まるものではありません。視線の抜け方、音の届き方、それぞれが活動する時間帯の違いによって、同じ面積でも住み心地は大きく変わります。開放感とプライバシーは、どちらか一方を選ぶものではないと思います。

家族が自然につながれること。

そして、必要な時には少し離れられること。

その両方が無理なく共存していることが、住まいを「息のつける場所」にしてくれるのではないでしょうか。


執筆者:安井 俊夫(天工舎一級建築士事務所 代表)

「自分たち家族は、この先どんなふうに生きていきたいのか」

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