『花のさくら通り』萩原浩 著 | 親子の手紙には泣かされます

萩原浩氏の描く「ユニバーサル広告社シリーズ」の第三弾にあたる『花のさくら通り』を読みました。社員4人の倒産寸前のユニバーサル広告社は、ついに都会に構えていた事務所から、ちょっと田舎の―いやかなり寂れた”さくら通り商店街”に、引っ越すところから物語は始まります。

和菓子店の2階に事務所を構えたユニバーサル広告社でしたが、この商店街も御多分に漏れずシャッター通りと化した、限界ギリギリの商店街。

今は桜の木も無いのに、6月になるとなぜか催される「さくら祭り」。今年もその時期を迎え、祭りのチラシを頼まれることから、騒動に巻き込まれていきます――

正直言えばシリーズ三作の中では、一番笑えませんでした。でも一番泣かされたお話でした。離婚して娘と離れ離れになった主人公の杉山と、今はもう会うことさえ許されなくなった小学三年生の娘・早苗との葉書の遣り取りは、それだけで切ないです。

前作の『なかよし小鳩組』の中では、二人で暮らす期間が描かれていただけに、会えなくなった今作の状況は辛いですね。

とまぁ、これはサイドストーリーであって、本筋は衰退の一途をたどるシャッター通りの商店街を、どう復活させるのか。あるいは高齢化する地方都市で、伝統的な祭りはどう存続させるべきなのか。そして地方のスーパーマーケットと地域の商店街との関係性などですね。

物語の肝は「商店街の再生」だと思いますが、同時に高齢化し過疎化していく「地方都市の再生」でもあり、それらにとって大切なことは「人と人の繋がり」だと描いているようにも感じました。

なにより「失ってから初めて気付いた本当に大切なものを取り戻したい」という人の気持ちだったのかもしれません。

私には笑いよりも涙の多かったシリーズ第三作でした。しかし三作の中で最も心に残ったのも、またこの一冊でした。


安井俊夫|天工舎一級建築士事務所
一級建築士・『建築トリック謎解きガイド』著者。建築や暮らし、本について日々感じたことを書いています。