【23年目の答え合わせ・第3回(最終話)】建物の「顔」をつくるもの。時間を経て深まる物理的な器としての家

1階外壁の部分的な塗り直し、2階ガルバリウム鋼板の洗浄、そして化学物質を排除した無添加の浴室のメンテナンス。築23年を迎えた住宅の改修工事に携わる中で、私自身も改めて「家づくりにおいて本当に大切なこととは何か」を深く考える貴重な時間となりました。

 最新のスペックや設備よりも大切なこと

現代の家づくりにおいては、最新の設備や数値化された高い断熱性能・耐震性能といった「機能面」を、重視される方が圧倒的に多くなっています。

勿論、それらは安全で快適な暮らしを支える上で欠かせない要素です。しかし、どれほど最新の設備を導入しても、形あるものはいつか必ず古くなり、いずれメンテナンスや交換の時期を迎えます。

では、時間が経っても決して色褪せない、家づくりにとって「本当に大切なこと」とは何でしょうか。

それは、「自分たち家族は、夫婦は、この先どんな風に生きていきたいのか」という想いを、しっかりと見つめることだと思っています。

 慣れ親しんだ物理的な「器」として

家とは、単なる設備の集合体ではありません。ご家族の生き方や想いを大切に演出し、時間の流れとともに変化していくことを受け止める「慣れ親しむ物理的な器」です。

第2回でお話しした浴室のように、この家は「化学物質のない環境で、安全に深呼吸して暮らしたい」というご夫妻の切実な願いを守るための器でした。

年月が経てば、無塗装の木材にはカビが生え、防水のコーキングには寿命が来ます。しかし、それらの変化もひっくるめて、この器は23年という時間をかけてご家族の暮らしに馴染み、共に歳を重ねてきたのです。

 建物が良い「顔」を見せる理由

第1回の冒頭で、私が久しぶりにこの建物の前に立ったとき、「とても良い歳の重ね方をしている」と感じたとお話ししました。建物にも人と同じように「顔」があります。

この家が良い顔をしているのは、特別な素材を使ったら出来上がるというものではありません。

「今の外壁の質感が好きだから、そのまま残したい」

「無添加だからこそ、カビが生えるのは自然なこと」

そんなふうに、建物の個性や経年変化をあるがままに受け入れ、深い愛着を持って丁寧にお手入れを続けてくださったご家族の存在があったからこそ、家はこれほどまでに美しく、穏やかな表情を見せてくれるのだと思います。

 共に歳を重ねるための伴走者

家は、完成して引き渡した時がゴールではありません。そこから何十年という時間をかけて、住み手と共に少しずつ唯一無二の「我が家」へと育っていくものです。

設計者としての私の役割は、その器の最初の形を整え、将来のメンテナンスを見据えた道筋をつくり、そして主治医のように長く伴走し続けることなのだと、今回の『23年目の答え合わせ』を通して改めて実感しています。

全3回、最後までお読みいただきありがとうございました。

工事は5月末に第一段の工事を行います。

そして第二段の工事を、6月の末から7月中旬にかけて行う予定です。

竣工当時の様子 2002年12月撮影


執筆者:安井 俊夫(天工舎一級建築士事務所 代表)

「自分たち家族は、この先どんなふうに生きていきたいのか」

ご家族の想いを大切にし、時間が流れて変化していく慣れ親しんだ物理的な器としての家づくりを、お手伝いしています。小田原周辺での住宅設計や、日々の積み重ねを大切にした無理のない省エネリフォームなど、住まいに関するご相談は、お気軽にお寄せください。

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