住まいの生理学02|個室を与える時期が早すぎるとどうなるか――子供部屋と家族の関係性を考える

前回は、子供部屋を最初から「勉強部屋」として考えすぎない方がよいのではないか、という話を書きました。今回は、その続きとして、子供に個室を与える時期について考えてみたいと思います。

子供に個室を与えることは、自立心を育てるために必要だ、と考える人は少なくありません。たしかに自分の持ち物を自分で管理し、自分の時間を持つことは、成長するうえで大切なことです。けれども、その考え方をあまりに早い段階から子供に当てはめてしまうと、家族と過ごす時間や、自然な会話が生まれる機会まで減らしてしまうことがあります。個室とは、単に「一人の部屋」ではありません。親子の距離感を変え、家族の関係を少しずつ変化させる装置でもあります。

個室は自立の場である前に「分離」の場にもなり得る

子供に自分の部屋を与えると、親は少し安心します。これで落ち着いて過ごせるだろう。勉強にも集中できるだろう。自分のことは自分でやるようになるだろう。そう思いたくなるのは自然なことです。しかし、まだ親の気配の中で過ごすことに安心を感じている年齢の子供にとって、完全な個室を早くから与えることが、本当にその子のためになるとは限りません。

子供は成長の過程で、少しずつ家族から離れていきます。それで良いのです。問題は、その自然な変化がくる前に、住まいの方が先に「分かれて暮らす形」を作ってしまうことです。

自立と孤立とは違います。ところが個室は与える時期を間違えてしまうと、自立を育てる前に分離を早めてしまうことがあります。ここは、家づくりの中で案外見落とされやすい点だと思います。

親子の会話は居間で生まれている

親子の会話というものは、あらたまって向き合った時にだけ生まれるものではありません。学校から帰って来た時、食卓のそばで宿題をしている時、居間で何となくテレビを見ている時、風呂上がりにダラダラしている時。そういう、途中の時間の中で自然に出てくる言葉の方が、むしろ大切だったりします。

ところが個室が早くから生活の中心になると、帰宅してそのまま自室に入る。遊びも宿題も部屋の中で済ませる。親は子供の様子が見えにくくなり、子供の方も、わざわざ言うほどではない小さな話を口にしなくなります。家族の関係とは、こういう些細な接点の積み重ねで出来ているものです。会話の回数が減ることよりも、気配を感じ合う時間が減ることの方が、実は大きいのかもしれません。

個室を急ぐ前に家の中の居場所を考えたい

子供部屋の話になると、個室が必要か不要か、という二つに一つの話になりがちです。ですがここで書いていることの本質は、そういう事ではなく、本当はその前に考えるべきことがあるのではないかと言う話です。大切なことは子供にとって、家の中に個室以外の居場所があるかどうかという点です。

たとえば、食卓の近くに本を広げられる場所がある。居間の一角に、少し落ち着いて過ごせる場所がある。親の気配を感じながらも、自分のことに集中できる場所がある。そうした中間的な居場所がある家なら、子供は必ずしも早くから完全な個室を必要とはしません。逆に言えば、家の中に「家族が一緒にいる場所」しかなく、少し身を引ける余白がない家では、個室を欲しがる時期が早まっても不思議ではありません。

つまり問題は、個室があるかないかではないのです。家の中に、段階的に選べる居場所が用意されているか。その方が、よほど大切なのだと思います。

部屋を与えることと子供が育つことは別の話です

もうひとつ言えば、部屋を与えることと、子供が育つこととは別の話だと思っています。勉強机があるから勉強するわけではありませんし、自分の部屋があるから急にしっかりするわけでもありません。むしろ個室を与えることで、親の方が「これで大丈夫だろう」と安心してしまう危うさもあります。

大切なことは子供がどこにいるかではなく、その中でどんなリズムで暮らし、家族とどう関わっているかです。住まいは、その関係を支える器です。部屋を一つ用意すれば、成長の問題まで片づくわけではありません。そこを混同すると、子供部屋の意味を見誤ることになります。

子供部屋は最初から完成させないほうがいい

そう考えると、子供部屋は最初から完成された個室として与えるものではなく、成長に合わせて少しずつ育てていくものだ、と考えた方が自然だと思います。

幼い頃は家族の近くで過ごし、少しずつ自分の持ち物が増え、やがて一人で落ち着ける場所が必要になる。その変化に伴って、空間の使い方が変わっていけば良いのです。

最初は広めの一室として使い、必要になった時に二つに分けられるようにしておく。あるいは、普段は開いて使いながら、年齢が上がれば独立性を高めていく。そうした柔らかな考え方の方が、実際の暮らしには無理が少ないと思います。皆さんが家造りを考えるとき、子供とどのような距離感で、過ごしたいと考えられているのか、今一度、御家族で話し合ってみることも大切です。

子供に個室を与えること自体が悪いのではありません。けれども、早く与えればそれでよい、というものでもないと思います。大切なことは、その子にとって今どんな居場所が必要なのか、そして家族との距離感をどう保っていきたいのかを見ながら考えることだと思います。

次回は、「思春期の子供にとって本当に必要な子供部屋とは何か」を、もう少し掘り下げてみたいと思います。

小田原周辺で家づくりをご検討の方は、間取りを描き始める前の段階でもご相談ください。子供部屋を含め、ご家族の暮らし方に合った住まいの考え方、あるいは子供との距離間の取り方や空間造りに関して、ご一緒に考え、ご提案させていただきます。

執筆者:安井 俊夫(天工舎一級建築士事務所 代表)

「自分たち家族は、この先どんなふうに生きていきたいのか」

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