住まいの生理学09|客間はなぜ消えてしまったのか―家族だけの家が失ったもの

家の新築計画をご相談いただく時、最初の打ち合わせで開口一番、「4LDKぐらいの家が欲しい」あるいは「35坪ぐらいで考えています」と、言われることがあります。もちろん最初の打ち合わせですから、それで構いません。ですが本当はもう少し違う話を聞いてみたいと思っています。

どんな家に住みたいのか。

どんな暮らし方をしたいのか。

どんな人たちと時間を過ごしたいのか。

そうした話です。

ところが最近は希望する部屋数の中に、昔なら当たり前に存在していた筈の部屋が含まれていないことに気付きます。

それが「客間」です。

現代の間取りから「客間」が消えた合理的な理由

核家族化が進み、三世代同居や四世代同居は珍しくなりました。その結果、客間は徐々に姿を消していきました。客間が無くなった分だけLDKは広くなり、家族が快適に過ごせる空間が増えました。それ自体は悪いことではありません。

実際、今の暮らし方を考えれば合理的な選択でもあります。家に来客が訪れることは少なくなりました。まして泊まっていく人など、一年に一度あるかどうかです。

客間が無くなれば、来客用の布団も不要になります。押入れも小さくできます。床の間も必要ありません。仏壇も置かなくなります。住宅として考えれば、とても効率的です。ですが私は時々、考えてしまいます。

本当に削ったのは、客間という部屋だったのだろうかと。客間があった頃の家には、家族以外の人が出入りしていました。

親戚が集まる。

近所の人が来る。

友人が訪ねて来る。

泊まり客がいる。

法事がある。

祝い事がある。

家は家族だけのものではなく、社会との接点でもありました。小さな子供には、親以外の大人と触れ合うことが可能でした。

また一昔前であれば、来客への対応は父親の役割であることが少なくありませんでした。

客を迎える。

酒を酌み交わす。

泊まり客の支度をする。

親戚が集まれば家族を代表して応対する。

今の価値観から見れば窮屈な面もあったでしょう。

ですがそこには、家と社会を繋ぐ窓口としての役割が確かに存在していました。

私は父親の権威が必要だと言いたいわけではありません。

しかし客間が消えたことで、家の内と外を繋ぐ役割そのものまで、失われてしまったのではないかと思っています。

家は広くなったのに「招ける人」がいない現代の住まい

家は昔より広くなりました。ですが招ける人は減っています。昔の家は狭かった。それでも親戚が集まり、近所の人が上がり込み、泊まり客を迎えていました。

今の家は広い。それなのに家族以外の誰も入ってこない。私はこの事実を、少し不思議に感じています。

家族全員がリビングにいるけれど会話をしているわけではない。

テレビを見ている人がいる。

スマートフォンを見ている人がいる。

パソコンを開いている人がいる。

同じ空間にいるのに、それぞれが別の時間と空間を過ごしている。そんな光景は今では珍しくありません。

すると今度は親が言うのです。

「もっと家族で会話をしなさい」

「家族との時間を大切にしなさい」と。

ですが考えてみれば、家そのものが他者との関わりを失い、家族だけの世界に閉じてしまいました。その中で自然にコミュニケーションだけが育つと考える方が、難しいのかもしれません。

私たちが本当に失ったのは「住まいの余白」

私は客間が消えたことで、本当に失われたものは「余白」だったのではないかと思っています。余白とは使わない部屋のことではありません。予定していなかった出来事を受け止める力のことです。

友人が訪ねて来る。

親戚が泊まる。

恋人を連れて来る。

孫が遊びに来る。

町内会の集まりがある。

誰かが病気になる。

介護が始まる。

どれも特別な出来事ではありません。人生の中で十分に起こり得ることです。

そうした変化を受け止める力こそが、住まいの余白だと思うのです。

いつからか住宅は、効率を求めることが最重要課題となりました。

無駄を省く。

客間を無くす。

収納を増やす。

LDKを広くする。

確かに合理的です。

ですが合理化を進める中で、私たちは何を削ってきたのでしょうか。

削ったのは部屋だけではなかったかもしれないと思うのです。

他者を迎える文化。

地域との接点。

家族以外の人と関わる機会。

そして人生の変化を受け止める余白。

そうしたものまで一緒に、削ってしまったのではないでしょうか。

家族だけに最適化された家は、本当に豊かなのか?

客間とは、客のための部屋ではなかったのかもしれません。それは家族以外の誰かを受け入れるための余白であり、社会との接点であり、未来の変化を受け止めるための器だったのかもしれないと考えます。

家族だけが快適に暮らせる家。それは一つの理想です。しかし時々考えてしまうのです。

家族だけに最適化された家は、本当に豊かな家なのだろうかと。

私たちが失ったものは「客間」という空間ではないのかもしれません。

本当はその部屋が持っていた大切な意味を、知らないうちに手放していたのかもしれないと。


執筆者:安井 俊夫(天工舎一級建築士事務所 代表)

「自分たち家族は、この先どんなふうに生きていきたいのか」

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