住まいの生理学07|トイレはなぜ汚れるのか―住まいと人の行動を考える

夏と聞いて思い浮かべる花の一つに朝顔があります。子供の頃、夏休みの宿題として朝顔の成長を観察した記憶のある方も多いのではないでしょうか。

実はこの「朝顔」という言葉、建築関係者には別の意味でも馴染みがあります。工事現場で落下物を受け止めるために設けられる防護棚を「朝顔」と呼びますし、かつて男性用として使われていた壁掛け式の小便器も「アサガオ」と呼ばれていました。

今では住宅で男性用小便器を見ることはほとんどありません。しかし、この小便器が姿を消したことで、別の問題が生まれたとも言えます。それが今回のテーマ「トイレの汚れ」です。

家を考える時、水回りの位置関係は家事動線とも深く関わる重要なテーマです。しかし意外なことに、トイレそのものについて本質的な話が交わされることは多くありません。また近年では、トイレや洗面所をまとめて「サニタリー」と呼ぶことも増えました。

サニタリーとは、「清潔な場所」を意味する言葉です。確かに浴室や洗面所は身体を清める場所ですが、トイレは本来、生理現象としての排泄を行う場所です。

かつて「御不浄 (ごふじょう)」と呼ばれていた場所が、今では快適で清潔な空間として整えられるようになりました。それ自体は素晴らしいことです。しかし同時に、「清潔であり続けること」が求められるようになったからこそ、新たな悩みも生まれています。

かつて家に男性用小便器が設けられていた時代には、男性の排尿は小便器で行うことが前提でした。しかし現在の住宅では、そのほとんどが姿を消し、家族全員が同じ洋便器を使います。一方で男性の排泄行為は、なにも変わったわけではありません。

設備だけが変化し、人の行動は昔のまま残っているのです。その結果として生まれたのが、床や壁への飛散による汚れの問題だと言えるでしょう。

責めるのではなく、変化を理解する

トイレを清潔で快適な空間として考えるようになったことで、私たちは以前よりも床や壁の汚れに敏感になりました。その結果、掃除を担う人の負担が見えやすくなり、家族の中で小さなストレスの原因になることがあります。しかし、大切なことは誰かを責めることではないと思います。

立って排尿する男性を、悪者にしたいわけではありません。ですが実際問題として本人も気付かないほど細かな飛散が起きていますし、特に思春期の男子の場合は、本人に悪気がなくても便器の外を汚してしまうこともあります。これはマナーや性格の問題だけではなく、身体の成長過程とも関係しているからです。問題なのは個人の資質ではなく、人間の行動と住宅設備との間に生じる、小さなズレだということを理解してほしいのです。

汚れることを前提に設計する

だからこそ設計段階での配慮が必要になります。例えば床材には目地の少ない材料を選び、壁には拭き掃除のしやすいパネル材を採用する。壁全面でなくても、腰から下の部分だけに施工するだけでも掃除の負担は大きく変わります。

また便器そのものも、掃除のしやすさを重視して選ぶことが大切です。必要以上に複雑な機能を備えたものよりも、日々の手入れがしやすい製品の方が、長い目で見れば快適な場合もあります。さらに巾木の形状や材質、便器まわりの納まりなどにも少し気を配るだけで、毎日の掃除は驚くほど楽になります。

住まいの設計とは、理想的な使われ方を期待することではありません。人が実際にどう行動するのかを理解し、その現実を受け止めることだと思っています。

清潔さとは思いやりの形でもある

排泄は誰もが毎日行う生理現象です。だからトイレは、「汚れないこと」を目指す場所ではなく、「汚れても簡単に掃除できること」を目指す場所であるべきだと思います。

それは掃除をする人の負担を減らし、家族の小さな不満を減らすことにもつながります。

そしてもう一つ大切なのは、掃除を誰か一人の役目にしないことです。もし汚してしまったなら、その都度自分で掃除をする。次に使う人が気持ちよく使えるように心掛ける。

それは特別なことではありません。家族として暮らす上での小さな思いやりです。

住まいを考えるということは、人間の行動を理解することでもあります。そして同時に、家族がお互いを思いやる仕組みを、考えることでもあるのです。

人の身体は年齢や性別、健康状態によって違います。だからこそ住まいには、正しさよりも配慮が必要なのだと考えています。トイレという小さな空間にも、家族が互いを思いやるための工夫は存在するのです。


執筆者:安井 俊夫(天工舎一級建築士事務所 代表)

「自分たち家族は、この先どんなふうに生きていきたいのか」

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