少し前にカーター・ディクスンの『爬虫類館の殺人』を読んだ際に、今度はカーの作品を読んで、その違いを比べてみようと考え、手にしたのが本書『連続自殺事件』。これはカーの代表作のひとつで、『爬虫類館の殺人』と同じく、密室殺人がテーマとなっています。
時代は1940年、戦時下のイギリス。スコットランドの古城の塔の最上階の部屋から、転落死した城主の相続問題で城に向かう主人公。塔は地上19mの高さがあり、その最上部の部屋の扉には室内から鍵が掛けられた上に、かんぬきも掛けられていた。
どう見ても自殺としか思えない状況なのだが、第二の事件が同じような状況で再び起きてしまう。城主が自殺ならば多額の保険金は下りない。そこで名探偵フェル博士が事件の究明に当たるのだが——。
こちらは1941年の作品で、『爬虫類館の殺人』は1944年の作品。つまりこちらの方が先に書かれたので、読む順番を間違えた気がします。
ただどちらの作品にも共通しているのは戦時下であり、灯火管制が敷かれているということ。これ今ではピンと来ないことですが、これが事件の謎に大きく影響している点が興味深いです。つまりこの時代でなければ書けない作品、あるいはこの時代設定であることが、とても大切だからです。
『爬虫類館の殺人』の密室は室内から目張りされた「目張りの密室」でしたが、こちらの作品は鍵の他に室内から閂(かんぬき)が掛けられた「内側から施錠された密室」。
フェル博士は『三つの棺』の中で密室講義をしていますが、その中では「機械的密室」「心理的密室」「遅延の密室」「遠隔の殺人=密室」と分類していますが、この作品の密室がどれに分類されるかを書くのはネタバレになるので止めておきます。ただ一言だけ言わせてもらうとすれば、本作のトリックに使われたアイテムを「そう使うのか!」と、驚かされることでしょう。

カーター・ディクスン名義の作品とジョン・ディクスン・カー名義の作品を続けて読んだのは、作品の雰囲気の違いを感じたかったからなのですが、この二つの作品では、それをあまり感じることが出来なかった気がします。
この作品も、甘い雰囲気のラブ・ストーリー要素がふんだんに盛り込まれており、冒頭の列車でスコットランドに向かう車内の様子だけを読むと、このあとラブ・ロマンスが生まれる予感しかしません。その点は『爬虫類館の殺人』とも似ています。
でもよく考えてみると、この頃のミステリ小説って、たいていラブ・ロマンスがセットになっている作品が多いことにも気が付きます。やはり血生臭いだけの殺人劇ではなく、そこに人が居る限り生まれる愛情の物語がセットになっている方が、作品の奥行きを深くしているのかもしれませんね。
安井俊夫|天工舎一級建築士事務所
一級建築士・『建築トリック謎解きガイド』著者。建築や暮らし、本について日々感じたことを書いています。