最近、詩集を続けて何冊か読みました。茨城のり子、長田弘、立原道造に西條八十など。なんとなくそういう作品に興味を惹かれる、お年頃なのです。で、「詩」繋がりで思考をジャンプさせて読んだミステリが本作『ある詩人への挽歌』です。
ミステリ小説における魅力の一つに、「舞台となる建築物そのものが物語の主役のような役割を果たす」作品があります。いわゆる「館モノ」と呼ばれるジャンルでもよく見られますが、古い洋館や城といった閉ざされた空間は、それ自体が住人の心理状態や狂気を映し出す鏡になることがあります。この建物に特徴や雰囲気があるミステリは、それだけで魅力が倍増するような気がします、あくまでも個人的な感想ですが。
また少し前にカーの作品を読んだ際にも書きましたが、私はコミカルな作品よりも、暗く陰鬱でおどろおどろした雰囲気を持つ作品が好きです。今回取り上げるマイケル・イネスの『ある詩人への挽歌』は、まさに私好みの「ゴシックの空気」が、全編を支配する作品でした。
本作は、一つの事件について複数の人物がそれぞれの推理を語り、真相が二転三転していく「多重解決」ものです。舞台は1930年代、猛吹雪に閉ざされた冬のスコットランド。人里離れた荒涼たるエルカニーの古城で事件は起こります。城主のガスリーは異常なほどの節約家(分かりやすく書けばドケチ)で、村人からも嫌われている年老いた変人でした。そのガスリーがクリスマスの朝に、城から墜落死しているのが発見されます。
生前、彼は「死の恐怖」を謳った詩を憑かれたように暗唱しながら徘徊するところを目撃されており、誰もが飛び降り自殺だと考えます。しかし、複数の視点から事件が語り継がれるうちに、「これは他殺ではないか?」「いや、他殺に見せかけた悪意ある自殺か?」と、真相が二転三転していきます。果たして真相は如何に——。

まず作品全体に暗く陰鬱で重苦しい雰囲気が、まとわりつくような特徴があります。それは古城の醸し出す物なのか、ガスリーの狂気が感じさせるものなのか、あるいはその両方が感じさせる不思議な魅力なのかもしれません。その重苦しさが単なる舞台装置ではなく、事件そのものにまとわりついているように感じられるところが、この作品の魅力だと言えます。
本作は1938年に発表された古典ということや、事件を語る語り手の中にはスコットランド訛りが酷く、原書で読むと何が描かれているのか分からないと言われるほど、読み難かったそうです。私が読んだのは2021年版なので、翻訳も新たに読みやすくなっていますが、それでも古典特有の読み難さはあるかもしれません。
ただこの作品は、かの江戸川乱歩が「第一級の名作」と絶賛した作品であり、一つの出来事を語る人物が変わるたびに、自殺から殺人へ、あるいは事故へと考察が変わっていく展開はお見事でした。これ映像で観たかったです。ちなみに巻末の解説も、とても面白かったです。
安井俊夫|天工舎一級建築士事務所
一級建築士・『建築トリック謎解きガイド』著者。建築や暮らし、本について日々感じたことを書いています。