住宅の転換期と、設計事務所の「商売っけのない」仕事ぶり

先日、大和ハウス工業が、新築戸建住宅事業の展開エリアを見直し、23道県で新築戸建住宅事業から撤退すると発表しました。今後は都市圏での新築事業を中心とし、リフォームや既存住宅の買取り・販売など、住宅ストック事業を全国で強化していくそうです。

大和ハウス、23道県で新築戸建て撤退…営業拠点を抱える本店・支社・支店50→13に↗

人口減少に加えて、建築資材や人件費の高騰、住宅ローン金利の上昇と、家を取り巻く環境は大きく変わり始めています。

「結婚して、子どもが生まれたら新築の一戸建てを建てる」

そんな、かつては当たり前だった暮らし方も、これからは少しずつ変わっていくのかもしれません。

大手ハウスメーカーでさえ、地方での新築事業を見直す時代ですから、地方で仕事をする建築設計事務所にとっても、これからは仕事のあり方そのものを考え直す時代なのかもしれません。

そんなことを考えていたとき、ある方から「自宅をリフォームしたい」というご相談をいただきました。ご希望を詳しく伺い、実際に建物も拝見しました。

どこを直したいのか。

これから、どんな暮らしをしたいのか。

希望を実現するためには、どれくらいの費用を予定しているのか。

建物の状態や、これから必要になるメンテナンスのことまで含めて、お話を伺いました。

そこで私が気になったのは、現在の家を希望に沿った形へ改修しようとすると、どうしても費用が大きくなってしまうことでした。

断熱性能や構造、設備機器類の交換など、これから先の暮らしに必要となる部分まで手を入れていけば、それなりの費用が掛かります。

さらにご相談者の年齢や、これから先の暮らし方の変化まで考えると、今の間取りを前提に無理に手を入れることが、本当に良い選択なのかという疑問が残りました。

リフォームの工事費だけではありません。

工事期間中の仮住まいや引っ越しの費用、リフォーム後に必要になるカーテンやエアコンなど、実際に暮らし始めるまでには、さまざまな費用が掛かります。

そうしたことを一つひとつ考えていくと、どう考えても、ご相談者が期待するリフォーム内容には及ばないのではないか、そう思うようになりました。

その結果、私は少し意外な提案をすることになります。

「この家をリフォームすることが、本当に一番良い方法なのか、もう一度考えてみませんか」と。

リフォームのご相談を受けたのだから、リフォームの設計をすることは、仕事としては当然なのかもしれません。ですが、私が考えたのは、「どうすればリフォームできるか」ではありませんでした。

「このご家族にとって、本当にリフォームすることが一番いいのか」ということでした。

そして御相談しているうちに、別の選択肢を提案することになりました。

「近くに建っている建売住宅を、一度見てみませんか」

その建売住宅は、現在のお住まいからそれほど遠くない場所に建てられていました。

内見にも同行しました。

もちろん建売住宅だから良い、という話ではありません。

間取りや設備のスペックを、見に行ったわけでもありません。

窓から入る光はどうか。

部屋から見える景色はどうか。

内と外が、どのようにつながっているのか。

実際に歩いたときの動線や視線はどうか。

そして、これから長く暮らしていくことを考えたとき、住まいとしての質が備わっているのか。そうしたことを、実際の建物を見ながら確認しました。

リフォームするのか。

建て替えるのか。

中古住宅を購入するのか。

建売住宅を購入するのか。

あるいは、今の家に住み続けるのか。

選択肢はいくつもあります。

大切なのは、最初に相談された方法にこだわることではなく、そのご家族にとって一番良い選択肢を探し、提案することだと考えたわけです。

建売住宅を内見しているとき、相談者の方から、

「安井さんは、商売っけがないですね」と言われ、思わず笑ってしまいました。確かに、そうですよね……って。

リフォームの相談を受けておきながら、自分の仕事にはつながらない建売住宅の購入を提案し、その内見にまで同行しているのですから。

でも、住宅は決して安い買い物ではありません。

そこには、ご家族のこれからの暮らしや、人生そのものが関わっています。

だからこそ、「リフォームしてください」と言われたからリフォームする。

「家を建てたい」と言われたから家を設計する。

それだけでは足りないと思っています。

かなり青臭い話をしていますが、理想は大切なのです。

時には、「リフォームしないほうがいいと思います」と伝えることもある。

また、「こちらのほうが、あなたのご家族には合っているのではないでしょうか」

と、別の道を一緒に探すこともある。

今回のご家族が、最終的にどのような選択をされるのかは、まだ分かりません。

それでも良いと思っています。

設計事務所の仕事は、図面を描くことではありません。

家を建てることでも、家を直すことでもありません。

その人が、これからどんなふうに暮らしていきたいのか。

そのためには、どんな住まい方が一番いいのか。

そこを一緒に考えること。

それが「設計」なのだと思っています。

図面を描くことは、もちろん設計の大切な仕事です。

建築主と内容を確認し、施工者に設計の意図を伝えるためのものでもあります。

でもそれは「設計」という仕事の一部分に過ぎません。

その前に、「この人にとって、本当にこの方法でいいのだろうか」と考えることも、設計の仕事だと思っています。

だから、時には自分の仕事につながらない答えを出すこともあります。

それを「商売っけがない」と言われるのなら、それも悪くはないと思っています。

地方都市で建築設計事務所を続けていく意味も、案外そんなところにあるのかもしれません。家を建てる人のために、家を建てないという選択肢まで、一緒に考える。

それもまた、設計事務所の仕事なのだと思っています。


執筆者:安井 俊夫(天工舎一級建築士事務所 代表)

「自分たち家族は、この先どんな暮らしを営んでいきたいのか」

ご家族の想いを大切にし、時間が流れて変化する「器 うつわ」としての住まいを考え、設計・監理業務をしております。

小田原・西湘エリアを中心に、神奈川県内や近隣地域での住宅設計や土地探しのお手伝い、リフォーム・リノベーションなど住まいに関するご相談も、お気軽にお寄せください。

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